「もういいかーい」
「まーだだよー」

 幼い頃、私はかくれんぼの名手だった。

「もういいかーい」
「もういいよー」

 隠れた私があまりにも見つからないものだから、最終的に村人総出で捜索隊が組まれたこともあるくらいだ。
 しかし――。

「あっ! (みお)ちゃん見っけ!」

 どういうわけか、ただ一人だけ絶対にあっという間に私を見つけてしまう男の子がいた。
 私もムキになって選りすぐりの隠れ場所を見つけてはそこに隠れたけれど、どこにいようと五分も経たずに見つけられてしまうのだ。
 理由を聞いてみても、「俺が澪ちゃんを見つけられないわけがないじゃん」と言うだけで、いつもはぐらかされてしまった。

「…………」
「あれ、探すのが早すぎて拗ねちゃった? ごめんね。でも、俺には澪ちゃんの居場所がすぐに分かっちゃうんだよね」
「……違うよ」
「うん?」
「私、もうそんなことで拗ねるほど子どもじゃないよ! そうじゃなくて、私、寂しいの! だって、はるくん(・・・・)、この村からもうすぐいなくなっちゃうんでしょう?」
「あー、それはそうなんだ。家の都合で、しばらく外国に行かなくちゃいけないらしくて」
「そうしたら、もう会えないじゃん! この先、誰が隠れた私を見つけてくれるの!?」

 ぷうっと頬をふくらませる私を見て、はるくん(・・・・)は思わずと言った様子で笑った。
 そして、私の頭にぽんと手を乗せて言ったのだ。

「安心して。絶対にこれを永遠のお別れにはしないから」
「ほんと?」
「うん。まあ、時間はかかっちゃうだろうけれど。……そうだな。俺たちは、これからちょっと長いかくれんぼをするんだよ」
「……かくれんぼ?」
「そう。できるだけ早くこの国に戻ってきて、必ず澪ちゃんを見つけるから。だから、それまでみんなと一緒に隠れていてよ」
「……分かった」

 ここで私が何を言おうと、はるくん(・・・・)がこの村から去ることは変わらないだろう。
 だったら楽しい思い出の中で、はるくん(・・・・)と別れたいと思った。

「じゃあ、始めるよ! いーち、にーい、さーん……」

 目を閉じて数を数え始めたはるくん(・・・・)の姿を最後に目に焼き付けてから、私はくるりと踵を返す。
 一歩一歩、はるくん(・・・・)から離れるたびに涙が溢れてきた。
 それを拭うこともせずに、私は風を切って走り続けた。

 ――後から思い返せば、これが私の初恋だった。

 そして、この時の私たちの約束がどう実を結ぶかなど、当時の私には知る由もない。