助けを呼ぶ声もやがて枯れ果て、やまびこだけが響き渡る。
私は、どう抜け出すかと考えるのも忘れ、ただ自分の愚かさと死を受け入れていた。
……彼らが敵……レジスタンスだということは知っていた。
それでも私は目を逸らした。信じたかった。ただ私は受け入れて欲しかっただけ。
なのに。
そのせいで、大切な情報すらも漏れた。
結果、多くの命が犠牲になろうとしている……。
縛られたまま、拳を握りつぶす。
汗はもう乾いて、代わりにベタベタとした塩が肌にまとわりついた。
……どうして、私は何もかも上手くいかないのだろう……。
凍りついた湖の氷を割るような痛みが、ちくり、と胸を突き刺した。
自分が嫌だった。失敗ばかりで、人に裏切られてばかりで……。
空を仰ぐ。そこに太陽や雲はなく、ただ冷たい鉄の壁がどこまでも続いていた。
どうでもいい……全てが。
世界が音を失ったように静まり返る。息をしているのかすらわからず、生きていることすら腹ただしかった。
もう、私のせいで数多の命が消えるとしても、なんの感情も湧かなくなってしまった。
耳に、ささやかな呼び声が聞こえる。誰を呼んでいるかはわからないが、遥か遠くから誰かが誰かをよび止めていることはわかった。
ひんやりとした空気の振動に、埃っぽい匂いが鼻を邪魔する。
気になって耳を澄ますが、すぐに自分を押し止めた。
呼び声は止まず、それどころかこちらへどんどん近づいてくる。
……なんだ?
「……マ。ホーマ!」
「どこにいるの?お願い、返事をしてちょうだい!」
トートとパラの声だ。声音は落ち着きなく揺れていて、焦りと後悔が感じられた。
……私を呼んでいる?でも私は、二人に見放されて……。
すっかり戸惑ってしまう。
声は一層強くなり、遠くの階段をなだれ落ちるような音がした。
普段は優雅な所作のパラでさえも、今はドタドタと大きな音を階段に擦り合わせて走っている。
…………助けに来てくれたの?
胸の鼓動が期待で早鐘のように打ちつけ、手に汗がじんわり感じる。
すぐそこなのに。
こんなに私のことを探してくれているのに。
……声が、出ない。
呼びたいのに。信じたいのに。
ただ、嗚咽だけが滴り落ちる。
「ホーマ。ホーマ?そこにいるのね!?」
トートがその微細な音を聞き分けて、興奮気味に近づいてきた。パラも嬉しそうに声を上げついていく。足取りは途端に軽くなり、ワルツを踊るように陽気にステップを踏んだ。
やがて二人は私がいる広間にたどり着いた。一人壁に縛り付けられて吊るされているのを見、二人は息を呑む。が、何か決意したように、二人は駆け寄り呪文を唱えた。
「「トゥーレス!」」
途端、するすると、体を巻いていたロープが解け落ち、私は地面に落ちた。衝撃で腰が痛んで、手足も棒のように固まっている。
自由になったはずなのに、体は言うことをきかなかった。
だが、心の中に絡まっていた何かが解け、天高く舞い上がっている気がした。
二人は涙を堪えるように顔をしわくちゃにしてこちらを見ていた。手をすっと伸ばし、二人分の腕の重さが私の体にのしかかる。
「うっ、苦しい……。」
「ホーマ!本当ごめんなさい!私、私、ホーマを疑ったりなんかして!あなたはそんなことしないのに!」
トートが泣きじゃくる。いつも自信満々に笑っている彼女とは思えない泣きようだ。
パラも整った顔を崩し、口を曲げて私の肩に顔を埋めた。
「私も。目先のものに、囚われすぎていて……大切なものを見失っていた…。」
そう二人に泣かれるのが気まずくて、私は足元を見つめていた。微かにロープの跡がつき、血流が止まったように青くにじむ。
私だって……。
私だって二人のことを疑った。本当は見下していると、決めつけて逃げた。二人の本当の気持ちを考えずに……。
「……私も。レジスタンスに全部話しちゃって……結果こんなことに。
私も二人を信じたかったよ……!でも……また裏切られたらどうしようって…。」
言いながら、涙が溢れんばかりにこぼれついて二人の肩が濡れた。それを気にも留めず、二人はいっそう力強く私を抱きしめる。
「それは私たちのせいでしょ!あなたを追い詰めちゃったのが全てなんだし。」
「そんなこと、ないよ。私だって……。」
しばし、少女たちの泣き声だけが地下に響く。悲しいのでも嬉しいのでもなく、言葉にならない思いが胸をたかった。
「私たち、また……友達になれるかしら。」
ふとパラが、静寂を破るように呟いた。私はパラの目を見つめ返す。長いまつ毛から雫が滴り落ちていた。
「なれると、思う。だって私たちは……。」
私の言葉もまた、呟いては消えていった。拾い上げるように、トートが言う。
「傷ついても、すれ違っても……たった一度でも会いたいって思えた。それが友情の証だと思うもの。」
言い終わるうちに私たちは笑いあった。
……けれど、その温もりを裂くように、ふと現実が頭をよぎった。
「ところで、さ。レジスタンスはどうしているの。今……。」
私が問いかけると、トートは深くうなだれた。声は小さく、沈んでいる。
「……それ言うの、忘れていた。今地上はレジスタンスのせいでメチャクチャになってるの。」
顔を曇らせ、パラが補うように口を開く。
「先生たちに使ったような薬をばら撒いて、意識を失って倒れる人々が続出しているの。救護係も足りない状況よ……。」
彼女の声が震える中、私は周囲に耳をそば立てる。遥か遠くの地上で……喚き倒れる人の声がした。
「でもそれは氷山の一角なんだよね。」
トートが低い声で口を挟む。悪寒が走り、私は恐る恐る尋ねた。
「どういうこと?」
「その間、レジスタンスは学校の防衛システムを破壊したの。…図書館の時みたいに。あちらこちらに爆弾が飛び交って…。」
ここでパラは声を低くして言った。
「まるで“戦場”よ。」
頭の中に、ガラスが飛び散り、火炎が飛び交うあの図書室のことが浮かんだ。それから悲鳴を上げる人々のことも。
彼らそこまでして……。
「そっか……。」
喉から落ちる塊を飲み込むように、私はうなずく。
「さっきレジスタンスが言っていた…。学校に毒を持って、爆発させるって。それから……
私が灰の少女だということも。」
レジスタンスの言っていた……灰の少女。重圧に耐えきれず、口からポツリポツリとこぼれ出た。
顔をあげて二人を見ると、顔にはみるみる驚きの色が広がっている。信じられない、と言った様子だ。
「灰の少女って、あの本の……。神と人を繋ぐ祭司のこと?でもそれがホーマって……一体どういうことなの?」
そう言ってトートは思い出すように頭をトントンと叩いた。
「そういえばあそこには……“我々を救うには、灰の少女が必要!”と殴り書きされてなかった?あれはレジスタンスが書いたものなの?」
口に手を当ててパラは考える。それは、パラがじっくり考える時の癖だった。
「ってことは、ホーマをさらったのも自分たちで救うため?わざわざあそこに書いたってことは、私たちが見ることをわかっていたのかしら……?」
「そうかも。でも、そのあとトートが倉庫で見つけた、“神の門は少女に開かれる”って文……あれも関係してるとしたらただ捕まえただけじゃ済まないかも。
その門ってやつを開くために……私を生贄にするつもりなのかもね。」
自分で予想を口走ってみるも、ゾッとした。
「酷いわ。自分たちの信念を貫き通すためだけに、ホーマや他の人を犠牲にしたってこと?本物の……”悪党“ね。」
パラの言葉に違和感を覚える。
「神は、目に入っただけで、私たち人間を殺したんだ……。」
リュシアたちが言っていたことを思い出した。彼らは神を心の底から憎むくらい、痛み傷ついてきた。
本当に、彼らを悪と呼んでいいんだろうか?私は一体どうすればよかったんだろうか?
「彼らは神に散々いたぶられてきた……。だから、心の底から神を憎んでいる…。奪ったのは私たちなんだ。だから悪者って言い切れないかも……。」
私がそう言ったとき、トートは何か言いかけて……でも、結局、黙った。
その沈黙が、なにより重たかった。
息を吸う。全身に力がこもり手が小刻みに震えた。
「私……もっと知りたい。灰の少女のこと、レジスタンスのこと。知らないまま、決めつけるなんて……そんなの間違っている。目を逸らさず、ちゃんと見たい。だからさ……。」
まっすぐな瞳が、私を見据える。
「二人も一緒に……助けてほしい。」
否定されちゃうかな。呆れられるかな。恐る恐る顔を上げる。二人は返事をするように笑いかけていた。
「もちろん!決まっているでしょう。」
「友達だもん!ね!私も知りたい。一緒に立ち向かわせて!」
「え、いいの……?」
思わず言ってしまう。肯定されるとは思っていなかった。命にかかることだし、こんな私に……命をかけてくれるとも思わなかった。
「何驚いてるの、ホーマ。
私たち、何度も助け合って、困難を乗り越えてきたじゃない。
最初あった図書室の時も、鍵を探した時も。誰一人かけても出来なかった。
一人じゃないからできたし、強いんだよ。」
トートは力強くうなずく。その言葉は………励ますように、なだめるように、凛と心に強く響いた。パラも薄く微笑んで、言う。
「一緒に知って、考えましょう。私たち三人ならきっとできるわ。ホーマ。私あなたのこと、信じてる。私たちの仲間でいてくれるって。どんなあなたでも……いいわ、私。
強くなろう、ホーマ。一緒に。」
途端、心に何かがとどめなく溢れていった。二人の思いが、優しく私を包む。母の温もりよりも、何よりも強い絆がそこにあった。
そうだ、私たちは強い。みんなでいるから、立ち向かえるんだ。
知らぬ間に笑顔が浮かぶ。心の底からの、喜びの笑顔だった。
「さ、まずはレジスタンスを止めましょう!話はそこからよ!」
トートが飛び跳ねるように立ち上がった。三つ編みがぴょこんと揺れる。
「トート。あなたったら。思い立ったらすぐ行動、なんだから。」
パラは苦笑する。この何気ない瞬間までもが、今は愛おしく感じられた。
やっぱり、私は一人じゃない。
一度、暗闇に落とされてからこそ、本当の光が見える。愛がわかる。
小さな温もりが、じわじわと胸に広がる感じがした。
私は、どう抜け出すかと考えるのも忘れ、ただ自分の愚かさと死を受け入れていた。
……彼らが敵……レジスタンスだということは知っていた。
それでも私は目を逸らした。信じたかった。ただ私は受け入れて欲しかっただけ。
なのに。
そのせいで、大切な情報すらも漏れた。
結果、多くの命が犠牲になろうとしている……。
縛られたまま、拳を握りつぶす。
汗はもう乾いて、代わりにベタベタとした塩が肌にまとわりついた。
……どうして、私は何もかも上手くいかないのだろう……。
凍りついた湖の氷を割るような痛みが、ちくり、と胸を突き刺した。
自分が嫌だった。失敗ばかりで、人に裏切られてばかりで……。
空を仰ぐ。そこに太陽や雲はなく、ただ冷たい鉄の壁がどこまでも続いていた。
どうでもいい……全てが。
世界が音を失ったように静まり返る。息をしているのかすらわからず、生きていることすら腹ただしかった。
もう、私のせいで数多の命が消えるとしても、なんの感情も湧かなくなってしまった。
耳に、ささやかな呼び声が聞こえる。誰を呼んでいるかはわからないが、遥か遠くから誰かが誰かをよび止めていることはわかった。
ひんやりとした空気の振動に、埃っぽい匂いが鼻を邪魔する。
気になって耳を澄ますが、すぐに自分を押し止めた。
呼び声は止まず、それどころかこちらへどんどん近づいてくる。
……なんだ?
「……マ。ホーマ!」
「どこにいるの?お願い、返事をしてちょうだい!」
トートとパラの声だ。声音は落ち着きなく揺れていて、焦りと後悔が感じられた。
……私を呼んでいる?でも私は、二人に見放されて……。
すっかり戸惑ってしまう。
声は一層強くなり、遠くの階段をなだれ落ちるような音がした。
普段は優雅な所作のパラでさえも、今はドタドタと大きな音を階段に擦り合わせて走っている。
…………助けに来てくれたの?
胸の鼓動が期待で早鐘のように打ちつけ、手に汗がじんわり感じる。
すぐそこなのに。
こんなに私のことを探してくれているのに。
……声が、出ない。
呼びたいのに。信じたいのに。
ただ、嗚咽だけが滴り落ちる。
「ホーマ。ホーマ?そこにいるのね!?」
トートがその微細な音を聞き分けて、興奮気味に近づいてきた。パラも嬉しそうに声を上げついていく。足取りは途端に軽くなり、ワルツを踊るように陽気にステップを踏んだ。
やがて二人は私がいる広間にたどり着いた。一人壁に縛り付けられて吊るされているのを見、二人は息を呑む。が、何か決意したように、二人は駆け寄り呪文を唱えた。
「「トゥーレス!」」
途端、するすると、体を巻いていたロープが解け落ち、私は地面に落ちた。衝撃で腰が痛んで、手足も棒のように固まっている。
自由になったはずなのに、体は言うことをきかなかった。
だが、心の中に絡まっていた何かが解け、天高く舞い上がっている気がした。
二人は涙を堪えるように顔をしわくちゃにしてこちらを見ていた。手をすっと伸ばし、二人分の腕の重さが私の体にのしかかる。
「うっ、苦しい……。」
「ホーマ!本当ごめんなさい!私、私、ホーマを疑ったりなんかして!あなたはそんなことしないのに!」
トートが泣きじゃくる。いつも自信満々に笑っている彼女とは思えない泣きようだ。
パラも整った顔を崩し、口を曲げて私の肩に顔を埋めた。
「私も。目先のものに、囚われすぎていて……大切なものを見失っていた…。」
そう二人に泣かれるのが気まずくて、私は足元を見つめていた。微かにロープの跡がつき、血流が止まったように青くにじむ。
私だって……。
私だって二人のことを疑った。本当は見下していると、決めつけて逃げた。二人の本当の気持ちを考えずに……。
「……私も。レジスタンスに全部話しちゃって……結果こんなことに。
私も二人を信じたかったよ……!でも……また裏切られたらどうしようって…。」
言いながら、涙が溢れんばかりにこぼれついて二人の肩が濡れた。それを気にも留めず、二人はいっそう力強く私を抱きしめる。
「それは私たちのせいでしょ!あなたを追い詰めちゃったのが全てなんだし。」
「そんなこと、ないよ。私だって……。」
しばし、少女たちの泣き声だけが地下に響く。悲しいのでも嬉しいのでもなく、言葉にならない思いが胸をたかった。
「私たち、また……友達になれるかしら。」
ふとパラが、静寂を破るように呟いた。私はパラの目を見つめ返す。長いまつ毛から雫が滴り落ちていた。
「なれると、思う。だって私たちは……。」
私の言葉もまた、呟いては消えていった。拾い上げるように、トートが言う。
「傷ついても、すれ違っても……たった一度でも会いたいって思えた。それが友情の証だと思うもの。」
言い終わるうちに私たちは笑いあった。
……けれど、その温もりを裂くように、ふと現実が頭をよぎった。
「ところで、さ。レジスタンスはどうしているの。今……。」
私が問いかけると、トートは深くうなだれた。声は小さく、沈んでいる。
「……それ言うの、忘れていた。今地上はレジスタンスのせいでメチャクチャになってるの。」
顔を曇らせ、パラが補うように口を開く。
「先生たちに使ったような薬をばら撒いて、意識を失って倒れる人々が続出しているの。救護係も足りない状況よ……。」
彼女の声が震える中、私は周囲に耳をそば立てる。遥か遠くの地上で……喚き倒れる人の声がした。
「でもそれは氷山の一角なんだよね。」
トートが低い声で口を挟む。悪寒が走り、私は恐る恐る尋ねた。
「どういうこと?」
「その間、レジスタンスは学校の防衛システムを破壊したの。…図書館の時みたいに。あちらこちらに爆弾が飛び交って…。」
ここでパラは声を低くして言った。
「まるで“戦場”よ。」
頭の中に、ガラスが飛び散り、火炎が飛び交うあの図書室のことが浮かんだ。それから悲鳴を上げる人々のことも。
彼らそこまでして……。
「そっか……。」
喉から落ちる塊を飲み込むように、私はうなずく。
「さっきレジスタンスが言っていた…。学校に毒を持って、爆発させるって。それから……
私が灰の少女だということも。」
レジスタンスの言っていた……灰の少女。重圧に耐えきれず、口からポツリポツリとこぼれ出た。
顔をあげて二人を見ると、顔にはみるみる驚きの色が広がっている。信じられない、と言った様子だ。
「灰の少女って、あの本の……。神と人を繋ぐ祭司のこと?でもそれがホーマって……一体どういうことなの?」
そう言ってトートは思い出すように頭をトントンと叩いた。
「そういえばあそこには……“我々を救うには、灰の少女が必要!”と殴り書きされてなかった?あれはレジスタンスが書いたものなの?」
口に手を当ててパラは考える。それは、パラがじっくり考える時の癖だった。
「ってことは、ホーマをさらったのも自分たちで救うため?わざわざあそこに書いたってことは、私たちが見ることをわかっていたのかしら……?」
「そうかも。でも、そのあとトートが倉庫で見つけた、“神の門は少女に開かれる”って文……あれも関係してるとしたらただ捕まえただけじゃ済まないかも。
その門ってやつを開くために……私を生贄にするつもりなのかもね。」
自分で予想を口走ってみるも、ゾッとした。
「酷いわ。自分たちの信念を貫き通すためだけに、ホーマや他の人を犠牲にしたってこと?本物の……”悪党“ね。」
パラの言葉に違和感を覚える。
「神は、目に入っただけで、私たち人間を殺したんだ……。」
リュシアたちが言っていたことを思い出した。彼らは神を心の底から憎むくらい、痛み傷ついてきた。
本当に、彼らを悪と呼んでいいんだろうか?私は一体どうすればよかったんだろうか?
「彼らは神に散々いたぶられてきた……。だから、心の底から神を憎んでいる…。奪ったのは私たちなんだ。だから悪者って言い切れないかも……。」
私がそう言ったとき、トートは何か言いかけて……でも、結局、黙った。
その沈黙が、なにより重たかった。
息を吸う。全身に力がこもり手が小刻みに震えた。
「私……もっと知りたい。灰の少女のこと、レジスタンスのこと。知らないまま、決めつけるなんて……そんなの間違っている。目を逸らさず、ちゃんと見たい。だからさ……。」
まっすぐな瞳が、私を見据える。
「二人も一緒に……助けてほしい。」
否定されちゃうかな。呆れられるかな。恐る恐る顔を上げる。二人は返事をするように笑いかけていた。
「もちろん!決まっているでしょう。」
「友達だもん!ね!私も知りたい。一緒に立ち向かわせて!」
「え、いいの……?」
思わず言ってしまう。肯定されるとは思っていなかった。命にかかることだし、こんな私に……命をかけてくれるとも思わなかった。
「何驚いてるの、ホーマ。
私たち、何度も助け合って、困難を乗り越えてきたじゃない。
最初あった図書室の時も、鍵を探した時も。誰一人かけても出来なかった。
一人じゃないからできたし、強いんだよ。」
トートは力強くうなずく。その言葉は………励ますように、なだめるように、凛と心に強く響いた。パラも薄く微笑んで、言う。
「一緒に知って、考えましょう。私たち三人ならきっとできるわ。ホーマ。私あなたのこと、信じてる。私たちの仲間でいてくれるって。どんなあなたでも……いいわ、私。
強くなろう、ホーマ。一緒に。」
途端、心に何かがとどめなく溢れていった。二人の思いが、優しく私を包む。母の温もりよりも、何よりも強い絆がそこにあった。
そうだ、私たちは強い。みんなでいるから、立ち向かえるんだ。
知らぬ間に笑顔が浮かぶ。心の底からの、喜びの笑顔だった。
「さ、まずはレジスタンスを止めましょう!話はそこからよ!」
トートが飛び跳ねるように立ち上がった。三つ編みがぴょこんと揺れる。
「トート。あなたったら。思い立ったらすぐ行動、なんだから。」
パラは苦笑する。この何気ない瞬間までもが、今は愛おしく感じられた。
やっぱり、私は一人じゃない。
一度、暗闇に落とされてからこそ、本当の光が見える。愛がわかる。
小さな温もりが、じわじわと胸に広がる感じがした。

