神の門を開く少女たち

カーテンから差し込む光と共に、新鮮な朝の匂いが鼻をくすぐった。
 と同時に、カミールが私の体に飛び乗り、しきりに私の顔を舐めて起床を知らせる。
 体を起こし、冷たい床に触れた瞬間………昨日の記憶が蘇った。

 あの夜の男たちは言っていた。
 運命が変わる計画を成し遂げる………その為には「灰の少女」と呼ばれる人物が犠牲になる、と。
 灰の少女……一体誰のこと?今でも、思い出すだけで背筋がゾワゾワする。聞き取れたのはほんの少し。
 それだけでも、只事じゃないのはわかった。
 
 私は魔法が使えない、ただの生徒。私に彼らを止める力なんてない。
 ……それに、もしかしたら……勘違いかもしれない。あんな時間に一人(と一匹)だったんだし。

 だけど。

 胸の奥で、妙な違和感がある。
 根拠なんてないのに、何かが引っかかってしょうがない。

 もし、あれが危険な計画ならば……
 灰の少女だけじゃなく、学校中の人が犠牲になる。

 そんなに多くの人を見殺しにできない。私には、そこまで冷たくも、強くもない。

 だとすれば、私ができることを探そう。

 真実を知って、先生に伝える。 それしか方法はない。きっと、先生たちが男たちを止めてくれるはずだ。

 胸の奥がじんわりと温かくなる。

 ……私だって誰かを守れるかもしれない。
 そんな気持ちが微かに芽生えたからだ。
 胸の中に力が満ちて、私の背中を押す。
 学校に行くのが、いつにも増して楽しみになった。

 くいくい。
 突然、カミールが私のことをつつく。見るともう7時を上回っていた。そろそろ準備しないと、間に合わない。

 「ありがとう、カミール!でもごめん,散歩の時間はないかも!」

 尻尾を小刻みに振り、カミールは私に制服を持ってくる。私は慌てて袖を通しながら、薄いパンをかじった。

 「じゃあね、カミール。私、頑張ってくる。」
 
 そうだ、私には使命ができたんだ。みんなを守る、という使命が。
 
 よおし、頑張るぞ。
 大きく伸びをする。ロビーから入る光は、祝福をするかのように、床に淡い黄金の影を描いては消えていった。

☆*:.。. …………………………………….。.:*☆
 
 午後。授業が終わり、みんなも寮や部活動に向かっていく。
 そんな中、いつもの私なら逃げるように部屋に戻って行ったのに、今日はまっすぐ図書室へ足が向かっていた。

 彼らが言っていた、灰の少女や炎の使徒。

 その手がかりになる何かが、見つかるかもしれないと思ったからだ。

 ……炎の使徒。妙に引っかかる名前だ。確か、歴史の授業で聞いたような。
 魔法が使えない私は、どの授業にも上の空だったので、何も覚えていなかった。
 ……あの時ちゃんと聞いていたらな。
 思わず、自分を責める。でも、今更悔やんでもしょうがない。 
 とりあえず、まずは歴史の書棚を探そう。

 その時私は珍しく、本を探すのに使う簡易精霊にまともに話しかけた。
 小さな羽を持ち、血色の悪い緑色の肌が汗で濡れている。精霊は、羽ペンのような細い腕をくねらせ、ため息混じりに棚を指差した。

 そこは、北向きの、暗く目立たないところだった。そっと足を踏み入れると、花弁のようなものが舞った。

☆*:.。. ……………………………………….。.:*☆
  
 棚の奥へ進もうとすると、微かに道がうねった。一歩ごとに地形が変わっていく。まるで私を試しているようだ。ただ歩くだけなのに、こんなにも苦労するなんて。

 「なあ、聞いた?昨日の夜の話。」

 びくんと、思わず跳ね上がる。茶髪の男子生徒二人が、コーヒーを片手に何やら話し込んでいた。

 「昨日の夜に怪しい男が学校に侵入したらしいってやつだろ?本来、侵入者は踏み込んだ時点で魔法探知に引っかかって捕まる。でもその男はそれすらもすり抜け,姿をくらましたという。あれか?」

 「そうそう。その男の目的は何か,いま学校にいるのか出て行ったのか,それすらもわからならしいぜ?物騒だよなー。」

 二人は軽い噂話、と言ったように声をあげて笑っていた。

 きっと、あの噂話は昨日の男たちのことだ。……でも、魔力探知に引っかからなかった?
 信じられない。学校の魔力探知は世界一だ。
 髪の毛一本分の魔力の揺れすら逃さないのに。
 彼らはただの侵入者じゃない。思った以上に強敵だ。
 ぎりっと、奥歯を噛み締める。口に塩のようなしょっぱい味が広がった。緊張と焦りのような、汗の味だった。

☆*:.。. ……………………………….。.:*☆
 「やっと、たどり着いた……。」

 一息ついて、しゃがみ込む。髪の毛に、なぜか枝が引っかかっていた。手ぐしで髪をかき分け、書棚を見上げる。
 
 人類誕生から戦争、現在に至るまで…………何万年もの時代の学説書が列をなして並んでいた。これだけで図書館を一個作れるほどにある。
 ここから一体どうやって灰の少女や炎の使徒のことを探すのか……気が遠くなりそうだ。
 調べ物に慣れていないし、ここの本使いの精霊もあまり役に立たない。一気に気勢がそぐわれた感じがした。
 
 こんなの、私には荷が重すぎるよ。第一、調べ物の魔法すら使えない私に、何ができると言うの?
 だらんと垂らして、くるりと背を向ける。日も沈み,本のラベルもいっそう見づらくなっていた。
 私は元のホーマに戻ってしまった。何もできず、変えられない、弱い少女に。
 ……その瞬間、胸がちくりと痛んだ。逃げることへの、罪悪感だった。

 ポスっ。
 胸の辺りに柔らかな衝撃が走った。……誰かにぶつかった。

 「ごめんなさい……。」

 「ねえっあなた! 」
 ぶつかった目の前の少女が、いきなり顔を寄せてきた。自分を曲げない、したたかな瞳が私を見つめる。声はやけに真剣だ。

 「タルタロス文書の「神を裁く計画」、信じるよね!」
 
 ……は?

 誰かと間違えたんだろう。いきなり赤の他人に都市伝説まがいなことを口走るわけがない。

 「ごめんなさいね。……あなた、それ、今日でもう五人目よ。皆さんに迷惑をかけてしまうから、おやめになった方がいいわ。」

 咎めるように、長身の少女が静かに一歩前に出て、申し訳なさそうに頭を下げた。

 肌は褐色で、艶やかな黒髪が肩に垂れかかっている。瞳は深い琥珀色で、じっとこちらを伺う視線は柔らかくも芯の強さが見えた。
 ゆったりと髪を撫でる仕草が、穏やかさと優雅さを醸し出している。
 この子、見たことある。確か学校のミスコンで優勝した子じゃなかったけ。

 「あの、私……。その、……タ、タロタロス?」

 「ええ、それはかつて、神の支配が始まってまもなく、人間が、好き勝手していた神々を、裁くために作った法。
 これが本当にあったら………!」

 少女はぐいと顔を寄せながら、待ちきれないかのように早口でまくし立てる。

 やばい、止まらない。逃げようとするも、気圧されて抵抗できない。………この人、体の割には、力強くない?

 私が抵抗する折、彼女の解説の声に隠れ、怒りのこもった足音が近づいてきた。足音はここで止まり、じろりとこちらを睨みつける。

 「ミスヴェルビア!またあなたですか!図書室で叫び出すのはおやめ!次やったらつまみ出して、二度と入れなくしますからねっ!」
 
 大柄な司書のパーフェスだった。彼女は怒りのこもっただみ声で、雑学娘に向かって怒鳴りつける。 
 怒号と、彼女の声が空間に混ざり合った。

 私は思わず耳を塞ぐ。
 昔から五感……とりわけ耳がいいので、大きな音が響き合う環境は苦手なのだ。 
 視界が白くなり、うっすら吐き気が込み上げてきた。

 「大丈夫?」
 
 頭上から、優しい声が聞こえた。さっきのミスコン少女だ。
 気遣うような穏やかな顔をして、こちらを見ている。

 「うるさいわよね……ごめんなさい。さっきもいきなり変なこと……。
 悪い子じゃないんだけれどね、ちょっとていうかかなり、変わっていて。
 良かったら、一旦図書室の外に出る?耳がいいあなたにとって、ここはかなり苦しいでしょうから。視界も奪われるほどにね。
 ……安心して。私もついていくから。」

 そう言って彼女は、寄り添うように私の腰に手を当てた。
 ……この子、私のこと、ちゃんと見てたんだ。でも何で、視界のことまでわかったの?
 疑念を抱きながらも、私は出口へと向かう。ミスコン少女は時折友人のことを気にするように振り向きながらも、私についていった。

 ……ところで、この子達、なんて名前だろう。
 尋ねようと口を開いた途端、爆音が喉に響いた。
 何かが崩れ落ちたのだろうか。突然の破裂音に、私の声はかき消される。

 図書室の静けさが一瞬で消えた。
☆*:.。. …………………………….。.:*☆

 火焔と共に、紙の切れ端が宙を舞っている。頬に焼けた鉄のような熱が走った。
 振り返るまもなく、破裂音が何ヶ所からも連続して響いている。

 ………………何が起こったの?

 濃い煙が立ち上がり、息が詰まるほどくるしくなる。

 …シュッ

 視界の奥で、鋭い何かが身を掠めた。
 
 咄嗟に身を屈むと、頬にじわりとした痛みが走った。 ……血が滲んでいる。

 「隠れて!今すぐっ!」
 
 名前を尋ねられなかった少女が叫ぶ。言われた通り、私はするりと書棚の影に滑り込ませた。

 どういうことだ。図書室が暴走している?
 頭が回らない。
 ただ何かが……始まってしまったと、本能だけが告げていた。

 「ねえっアレって……図書室の仕掛けの弓じゃない?一体何が起こってるの?」

 「わからないわ。図書室のシステムが崩壊して暴走しているのは確かだけれど……この学校の魔法はそんな繊細さをかけたものではないわ。」

ミスコン少女が張り詰めた声で言う。
 彼女の滑らかな肌に、汗がひたたり落ちていた。

 あちらこちらで悲鳴が上がっていた。
 誰かがと呪文を唱えるも、その効果は空気にかき消されている。

 濁った毒のような空気が、図書室に充満していた。

 ……穏やかな知識の象徴が、今、暴力の権化になっている。

 「ねえちょっと!これどうするの!」

 雑学娘が慌てたように走ってきた。おさげはほつれて、顔にはすすのようなものが張り付いている。まるで炭鉱から出てきたかのようだ。
 彼女はなんとかいい知識はないかと、指を忙しなく動かしていた。

 「これって……昨日の男たちのことと、関係してるのかな。」

 思いついたように、つぶやく。さっきの噂と私が聞いた事実が示し合わせたように、つなぎ合う感じがした。
 この状況でこんなことをしでかすのは、彼らくらいしか思いつかない。

 ……早くも、牙を向けてきたか。
 悔しさと、やりきれなさが余計に増した。

 「男たちって?………もしかして、噂の?」
 少女たちの目が私に向けられる。好奇心が溢れ出しているのがわかった。

 私の話なんかきっと信じてくれない。誰にも話さないつもりだったけれど………。
 私のわずかな知識だけでも、解決に役立つのなら。
 意を決して、説明し始める。
 思っていた以上に、滑らかに口が回っていた。

 炎の使徒と呼ばれる者たちが、灰の少女という人物を狙っているということ。
 その計画の一部として、図書室を壊されたのかもしれないということ。
 それらを全て、彼女たちに話した。

 二人はうなずき、雑学娘が重々しく口を開いた。

 「ねえ、炎の使徒って、あれでしょ、この世界のシステムに反対する、“人間の生き残り”って呼ばれてるテロ集団……。
 もしかして、彼ら……テロを起こそうとしている?」

 思わず声を上げてしまった。炎の使徒の意味。あの時の授業の様子が鮮やかにおもいだされる。

 神は、人類の戦争を終結する代わりに、人を“奴隷として”支配した。
 神に抗い続ける武装集団。それが炎の使徒…………レジスタンス。
 彼らは、次の反乱の場所に、すみかをつくって暮らしているという。
 じゃあ、彼らが言っていた手筈って……。

 準備ができた。その言葉が頭をよぎる。
 
 準備とは、この学校の地下に、棲家を作ることだったんだ。

 「じゃあ今って、テロの始まりってこと?」

 「わからない。奴らのすることは読めない。でも………………。
 今、私たちが動かなきゃ、誰も生き残れないかもしれないわ。」

 じーんと彼女の言葉が刺さる。

 見ると、扉の前に大きな瓦礫がどっしりと居座っており、出入りができなくなっていた。
 お前たちを出す気がない……。そう言われているようで、背筋がすくむ。

 私たちがどうにかしなきゃ……わかっているのに、さっきから足が一歩も動かない。

 ……助けは、こない。逃げることすらできない。

 痛みに耐えきれず、誰かの叫び声がひび割れた壁に反響した。続いて、耳をつんざくような破裂音。
 それらは見せしめるように鳴り響き、私の不安を煽り立てた。
 何とかなる、きっと誰かが助けてくれる………そんな安易な考えが、今音を立てて砕け散った。

 今すぐどうにかしないと、みんなが危ない。
 そうじゃないと、みんな、死ぬ。
 顔を覆いたくなるくらい、空気が重かった。

 「でも、一体どうやって?私たちまだ二年生なのよ!」

 震える声でミスコン少女は反論する。先ほどの冷静さは失われ,ただ顔には恐怖だけが張り付いていた。

 「…ひとつだけ方法がある。でも、ものすごく、危険。」

 「何?教えて、知っている分だけ。」

 私はもう知ってしまった。もう、目を背けられない。死にたくない。立ち向かうのが、怖い。

 けど、それ以上に。
 “知っている私”はこのレジスタンスたちの動きを食い止めければいけない。このままじゃ、多くの命が失われる。

 それをわかっていて諦めるなんて、私にはできなかった。

 「あそこ、図書室の一番奥の壁。あそこに機能停止ボタンがある。」
 「ボタン…?」

 「あれを押せば、暴動は止まるはず。」

 そう言って、雑学娘は震える手で指差した。もう煙で見えない。
 何よりそこは、爆発や、弓矢の攻撃が一番激しい場所で……こんなとこに入っていくなんて、到底無理だった。

 「あんなところ、どうやっていくの?」

 「いまは、魔力探知が暴走している状態。……攻撃を避けて通るには、完全に魔力を消さなくてはならないかも。」

 「ねえ、それって魔力さえなくせばいいんでしょう?」

 「ええ、完全にね。でもそんなの………………子供の私たちに無理だよ。」

 「だったら……私がやる。」
 声が震えていた。内心は恐怖でいっぱい。それでも……言わなきゃならなかった。

 「私は魔法が使えない。そもそも魔力がない……。ないものに、魔力探知は反応しないはず…。
 私なら、攻撃を受けずに止められる……かも。」

 二人は顔を合わせた。もう、彼女たちの顔は恐怖なんてない。
 冒険を始める子供のように、晴れ晴れしていた。

 「こういうのもなんだけど、……ある意味、チャンスかも。魔力がないって、ここでは最強ってことだもん。」

 雑学娘はいたずらっぽくニヤリと笑った。

 「……ただ一つ問題がある。奥は距離があるし、煙で視界が効かない。しかもその間、誰かが犠牲になるかもよ。
 それはどう乗り越える?」

 緊迫感を打ち破るようにミスコン少女が手を挙げた。

 「はいはーい!それなら私の得意魔法………祈祷が使える!」

 「祈祷魔法?」

 「この魔法は、“明確な目的”があれば使えるの。
 今回なら……この子がボタンを押すまで、誰も傷つけさせないって祈れば、守りの加護が発動するはず!」

 頼もしい声に、希望がにじんだ。私も小さな声で続ける。

 「視界のことは大丈夫。……わたし、鼻がいいから、それで補えるかも。」

 「決まりねっ!わたしが入りやすいタイミングを見つける。あなたはその合図でまっすぐ壁に向かって走るのよ。」

 弾けんばかりの笑顔で雑学娘は言って、それからじっと辺りを見つめた。

 もう、指の動きは止まっていて、ただ興奮したかのように人差し指が立っている。

 恐怖をも超える覚悟。それが三人を強く結びつけていた。

 爆発までの、ほんのわずかな静寂。

 一瞬だけ起こる、“攻撃の全てが止まる時間”

 ……彼女はその瞬間を、見逃さなかった。
 力を入れて叫ぶ。
 「今よっ!」

 その声を合図に、私は力強く一歩を踏み出した。
 体の重心を足に移し、前へ、前へと進む。
 人の足音、煙の気配、魔力のうごめき……全てが耳元でささやきはじめ、私の五感を研ぎ済ませていく。

 視界は煙で霞んでいく。

 本当は足が震えて、心臓が喉元まで跳ね上がっている。

 死ぬかもしれない。あんなとこ、命がいくつあっても足りない。

 それでも、いくの?

 本当に、あなたは満足するの? 

 ふと声が響く。私を問い詰めるような、厳かな声だ。

 今までの人生、いつも何かのせいにして、逃げてきた。 孤児だったから。魔法が使えないから。いじめられているから‥。

 誰にも必要とされてないから。

 でも、そんなの、自分を守るための言い訳だ。 本当のことから目を逸らして、殻に閉じこもっているだけなんだ。
 そして何も掴めずにいるだけなんだ。

 本当は………こんな私から早く抜け出したかった。

 弱い人……そのレッテルを覆したい。

 カミールに頼ってばかりじゃ、いられないよ。

 何より今は、私のために魔法を使う人たちがいる。 傷つける魔法ではない。私を、みんなを、守るための魔法。

 二人の恩を無駄にはできない。ここで逃げたらきっと、私は私を許さない。

 自分を奮い立たせて,足を力を込めて踏み締める。

 震えても、怖くても……変わるって決めたから!

 目を大きく見開いた瞬間、胸の奥に、すっと、何かが入ってきた。あたたかくて、そっと手を差し伸べるような柔らかなもの。

 ……光だ。微かな、力強い光。私を照らす、道しるべ。

 彼女が言っていたのは、これだ。ようやく見つけた。

 力を振り絞り、ボタンを押した。
 …シューー。
 音と共に、煙も爆弾も弓矢も失せていく。まるで、最初からなかったように。 

 緊張が緩み、膝から力を抜けて崩れ落ちる。手にはまだ、さっき感じた光の温もりが残っていた。

 やったんだ……私。自分の手で。 目が覚めたような、ぼんやりとした達成感を感じる。

 誰かが叫び声を上げ、それを合図に喜びで部屋が湧き上がる。
 生き延びたと言うこと。自分たちでやり切ったと言うこと。じんわりと心が温かくなった。
 ぽつり。と涙が滴り落ちた。不安も嬉しさも怖さも、全部溶け切った、涙が。

 「わーー!すごい!やったよやったよ!三人でやったよ!」

 雑学少女が飛び込んできた。ミスコン少女も笑みで顔がこぼれ落ちている。

 三人で………。

 初めてだった。こんなふうに誰かを信じれたのは。

 一人じゃ、きっとできなかった。みんながいるから、私は立ち向かえたんだ。

 何より、私は初めて自分を好きになった。

 諦めずに、みんなを助けられた私を。

 ……ほんの一滴でも、私を好きになれて良かった。
 言葉にならない嬉しさが、胸の奥から私を襲う。

 いま、私は1番の……幸せ者だった。

 そういえば。あの子たちの名前、聞き忘れてた。

 「ねえ、自己紹介しそびれた。わたしはホーマ。あなたたちは?」

 「私、トート!」

 「パラヴァティ。パラって呼んで。ホーマ!」

 「……あの。」
 胸がじんわりと熱くなり、言葉が続かない。
 穏やかな沈黙が、私たちの間を流れた。

 「……ねえ、私たち、友達になってくれる…?」

 喉から必死に声を絞り出して、言う。もっと伝えたいことがあったけれど……でできたのは、簡単な言葉だった。

 二人はにっこり笑いかけて、返事をする。

 「「もちろん!」」

 そうして三人で笑う。何がそんなにおかしいかはわからなかったけれど……。 

 でもただ幸せが心に満ちていたのは、わかった。

 ああ、カミール。
 ちゃんといたよ。私を見てくれる人。

 まだ、彼等は立ちはだかるだろう。計画がこんなことで終わるはずがない。

 でも。

 私は頑張れる。だって、仲間がいるのだから。


 ……あの暴動の横で、青白い炎が灯されていた。
 これから起こる未来の全てをすりかえる、運命の火。
 その炎がいつか私たちを引き裂くなんて……

 あの時の私たちはまだ何も知らなかった。