ずっと続けばいいと思う夜。
息ができる夜。
一人ぼっちだと感じる夜。
朝よ、来ないでおくれと願う夜。
きっと、人それぞれ、「夜」の思い出がある。
私には、名前を探している香りがある。
「初夏の夜の香り」
いつも、その香りがすると、胸がキュッと締め付けられているような気がする。
苦しくなってしまう。
私の悲しさを象徴する香り。
夏の訪れを感じることができるのに、名前がわからないから誰かと共有することができない。だから、ずっとモヤモヤしている。
毎年、悩んで、悩んで、本格的な夏に入って、やがて残暑となり、秋が来る。
年々暖かくなっている地球。
夏が長くなる日本。
夏が長くなれば、おのずと次の初夏はすぐに訪れたように感じる。
モヤモヤするサイクルが短くなっていけばいくほど、私は悩み続ける。
せめて、早く秋になってほしい。
初夏の夜の香りは私がひとりぼっちだと強く感じさせる。
初夏は五月から六月ぐらいにかけての期間。
私にとってこの時期は学級で話せる人がようやく増えてくる時期。
「今日、初めて喋ることができた。」
「あの人と仲良くなってきた。」
そんな思い出が増えていってしまうと家に帰ってきた時、
「寂しい。」
頭に浮かんでしまう。
学校で会う人、
話す人、
仲の良い人の顔。
数時間前まで会っていたはずなのに、最後に会ったのはもうずっと前だと思ってしまう。
頭が勝手に。
楽しいことがあった日は、より一層寂しい。
部屋に入ると香りがやってきて、
「寂しい」
「寂しい」
「寂しい」
と繰り返し考えている。
一人でいると、どうしても頭が活発に働く。なぜか勉強の面では働かないが。
些細なこと、
学校のこと、
――この香りのこと。
もう、思考を停止したいほどに考え続ける私。



