余命一年の優美なる軍医は能力を無くした治癒師を溺愛する

 子どものころ、父に連れられて行った治癒の仕事先でなんどか洋館に入ったことはある。が、ここはそれらのどこよりも瀟洒(しょうしゃ)だった。濃い茶色の柱が重厚で、象牙色の壁とのメリハリが聞いている。壁につけられた電気式のウォールライトはユリの花を象っていた。アーチ窓にはステンドグラスがあり、花台は曲線が優美。載せられた花瓶も優雅で、活けられた洋花はボリュームがあって華やかだ。

 玄関でスリッパを差し出され、彩雪は戸惑った。
 スリッパは土足に抵抗のある彩津国で普及し始めており、洋館を住居としている家庭では普通になりつつある。彩雪も使ったことはあるが、今の自分は雨の中を歩いてきたので粗末な着物の裾は濡れそぼり、泥がはねていて、このまま履いてはきれいなスリッパを汚してしまう。

「いかがされました?」
「私、汚れていて……」
「おかまいなく、どうぞ」
 女中に促され、仕方なくスリッパに足を差し込む。ふわふわして、なんだか落ち着かなかった。

 重厚な扉の前に行くと、女中がドアをノックする。
「癒島さまをお連れいたしました」
 許可が下りて扉を開けると、彩雪は中に入るように促された。

「失礼します」
 彩雪はおどおどと中に入り、驚いた。
 洋風の見事な部屋だった。天井から下がるシャンデリアはガラスがきらきらと輝いている。透かすように花綱模様の入った壁は象牙色で落ち着いていて、木の色を活かした梁の色との調和が見事だ。
 調度はすべて舶来品のようだった。大きなテーブルは重々しく、椅子もまた重厚だ。

 そこにかけている三人の人物もまた、部屋に劣らず見目麗しい。
 主人らしき壮年の男性は着物姿で堂々としていて、彼の妻である人もまた着物を着てやわらかな笑みを浮かべている。