余命一年の優美なる軍医は能力を無くした治癒師を溺愛する

 それでも異能があるころは、かわいがってくれていたのに。
 彩雪はため息をこぼす。
 相手の男性は、自分のこの境遇を知っているのだろうか。治癒の力がないこともなにもかも。

 相手の家のみんなは、この縁談を一縷の望みとしているかもしれない。治癒の力を持つ者を妻とすれば生きながらえることができる、そんな希望を持っているのだろうに、自分が打ち砕いてしまう。
 それが申し訳なくて、彩雪はひそかにため息をこぼした。



 翌日、彩雪は雨のそぼ降る中、風呂敷の包みを持って家を出た。風呂敷の中は千代子が選んだぼろぼろの古着だ。
 家族の見送りなどなく、ただひとりでの寂しい嫁入りとなった。

 渡された地図を手に、電車を乗って行った先にあったのは、見たこともないような洋館の豪邸だった。雨に濡れた赤い屋根と白い壁の対比が美しく、低く垂れた灰色の雲の下にあっても見事なたたずまいを見せている。手入れされた庭の緑と咲き誇るバラもすばらしい。

「ここが? 本当に?」
 ロートアイアンで飾られた鉄の門を前に、何度も地図を確かめる。表札を見ると『闇狩』と書かれており、確かにここであっているようだった。
 おずおずと門の正面にまわると、そこには女中が傘を差して立っていた。
 約束の時間だったので、女中が迎えに来てくれていたのだろう。

「初めまして、癒島彩雪と申します」
「伺っております。お待ちしておりました。どうぞ」
 鉄の門を開き、彼女は彩雪を中に招く。
 玄関に入った彩雪は声をなくした。