余命一年の優美なる軍医は能力を無くした治癒師を溺愛する

「大事な跡取り娘をそんな男の嫁にやるものか。だが、侯爵家との縁談をただ断るのも惜しい。だから彩雪、お前が嫁に行け」
「私が!? 治癒の力もありませんのに……」

「向こうにはお前を行かせると返事をしたが、さきほど了の返事があった。余命いくばくもない男だからな、あやかしに呪われているという噂もある」
「嫁の来手がないのでしょうねえ。いくら陸軍病院で働く大尉で優秀なのだとしても。無能でも使い道があるだけ御の字ですわねえ」
 良理子が着物の袖を口元に当てて笑う。

 彩雪は絶句した。そんな言い方は相手に無礼だとか、自分の幸せを両親は考えてくれないのかとか、そんなことが一気に去来してなにも言えない。

「わかればさっさと支度をしろ。明日には伺うと返事を出しておいた。闇狩家は太っ腹でな、必要なものはすべてあちらで用意してくださるとのことだ。身一つで出て行けるぞ」
「あら、さすがにそれではこちらの体面が悪くなりますわ。着物のひとつでも持たせませんと」

「めんどうなことだ」
「お母様、でしたらわたくしがお姉様のために見立てて差し上げます。街へ連れてってくださいませ」
「あらあら、千代子は姉思いのいい子ね」
 良理子が千代子の頭を撫でて機嫌よく言う。

「わかったら仕事に戻れ」
「……はい」
 彩雪は暗い声で答え、台所へ戻る。

 自分の意志など、なにも聞かれなかった。千代子に対してはあれこれと不自由のないように配慮をするというのに。
 これもいつものことだ。治癒の能力がない自分は、父にとっては使いものにならない駒だから必要ないのだ。母は母で、祖母に名づけをとられたからと自分を憎んでいる節がある。だから自分が名付けることのできた千代子をことさらにかわいがっている。