彩雪はがくりと肩を落とし、皿の破片をゴミとして片付けた。無事な食器はひとつひとつを丁寧に洗う。それがすんだら洗濯に向かった。

 癒島家は代々が治癒師をなりわいとしてきた。
 治癒の異能は貴重であり、それだけで人々からは一目置かれる。

 癒島家では治癒の異能が強い者が当主となり、依頼を受けて治癒に出向く。その功績として男爵の地位を得たが、父の悟史はさらなる上を目指して野心を燃やしているようだった。先祖が遺した製薬の処方を元にいくつもの薬を再現して、それらも活用している。

 十歳になったとき、彩雪は高熱で寝込んだ。
 そして、その熱が収まったころには治癒の力を無くしていた。
 何度か、異能を強化するという薬を父に飲まされたことがあったが、体調を悪くして寝込んだだけで異能が再現されることはなかった。滝修行に行っては風邪をひき、大人も躊躇(ちゅうちょ)する霊山での登山行では倒れた。
 父は失望し、彩雪を叱責した。

 かわりのように千代子の治癒の能力が強まっていた。彩雪と違って力の発現は不安定だったが、身分の高い客や高官が病の治療に訪れた際には決まって強い能力を発揮して病やケガを癒した。
 そのため、千代子は現在、稀代の治癒師として父とともに名を馳せていた。

 洗濯を終えて台所に行くと、女中がむすっと彩雪を見た。
「遅いわよ、お館さまがお呼びなのに」
「申し訳ございません。お父様はどちらに?」

「座敷でお待ちよ、さっさと行きなさい。戻ったら昼食の支度をするのよ」
「はい」
 彩雪は慌てて座敷へ向かった。
 縁側から障子の中へと声をかける。