数カ月後。
 煌真は屋敷の居間でうろうろと歩き回っていた。
「落ち着きがないな」
 紅茶を飲み、政経が言う。

「落ち着くなど無理です。彩雪が戦っているのに、医者でありながらなんと無力な」
 産み月となり産気づいた彩雪は今まさに出産の最中だ。産婆が来て、藍子が立ち会って出産を頑張っている。
 煌真は政経を見た。持っている新聞が逆さまになっているが、落ち着いたふりをしている政経は気付いていないようだ。

「母さんが俺を産むときは、父さんもこうだったのですか」
「……まあ、落ち着かない気持ちではあったな」
 答える政経は泰然として見せているが、どことなく恥ずかしそうだった。それから新聞が逆さまであることに気付いたようで、新聞を畳む。

 何度目かわからないため息をついたときだった。
 ほぎゃあ、ほぎゃあ、と空を裂く泣き声が響き渡った。

 煌真は慌てて居間を飛び出し、彩雪が出産を迎えた寝室に飛び込もうとして、前に控えていた女中に止められた。あとから追い付いた政経も同様だ。
 しばらく待って、ようやくドアが内側から開くと、すぐさま飛び込む。

 彩雪はベッドに起き上がっていて、産湯を終えた子を抱いていた。
「ご無事にお生まれですよ。かわいい女の子です。お乳も飲んで、健康そのものです」
 産婆がにこにこと告げる。