「驚きました。妹は霊力を高める薬を使っていたと……」
「どちらも禁止薬物だよ。副作用で精神を破壊していく。君への異常な攻撃性はそのせいかもしれないね。許可されている以上の効能の薬も独自に開発していたようで、それらは警察が押収したし、父君は逮捕された。明日には新聞にも載るだろう。君の実家は取り潰しになるかもしれない」
「仕方がありません。禁止された薬物を使用していたのですから」

 彩雪の胸中は複雑だった。つらくあたられた恨みがないと言えば嘘になる。だが、こんな結末になると考えたことはなかった。父は刑務所に入るのだろうし、放り出された母はひとりで生きていけるのだろうか。実家を頼ったところで、針のむしろだろう。

 もし妹からの恨みが薬の副作用だったとしたら。最初は姉へのちょっとした嫉妬だったものが、薬の影響で怨嗟へと成長していたのだとしたら。
 そうであってほしい、と彩雪は思う。薬の影響でもなく血のつながった妹に命を奪うまでの恨みを向けられていたなんて、思いたくはない。

「君が異能が使えなくなっていたのは精神的なものかもしれないね。毒薬を無効化した君の体が霊力を抑える薬を無効化しないわけがないと思う。確執や焦りなどの心の負荷が一時的に異能を抑え込んでいたのかもしれない」
「確かにあのころ、異能をとり戻さなくてはと必死になっていました。父の期待に応えたくて……」
 彩雪は目を伏せる。父の期待なんてものは実在しない虚像だったのだ。

「君に責任はない。今はただ、健康な子供を産むことだけを考えて」
「煌真さま……」
「愛しているよ、彩雪」
 煌真が囁き、彩雪の肩を抱く。

 彩雪は彼の肩に頭をもたせかけた。
 花が風に揺れ、彩雪は彼の体温を感じながら目を閉じた。