彩雪はそれから数日、寝込んだ。
 煌真は翌日から出勤していたが、帰って来たらすぐに彩雪の元に来て看病してくれて、それがなによりも嬉しかった。
 彼の体調は蛇男を退治して以降は崩れておらず、霊力も安定していた。

 実際、体調が戻った彩雪が癒しの力を流し込んでも、彼の霊力の流れに異常は感じられなかった。それどころか、彼の霊力は青みを帯びた美しい金の流れとなり、癒しているつもりの彩雪のほうが癒された。

 元気になった彩雪は、お弁当を持って陸軍病院へと向かった。
 お昼の休憩をとった煌真とともに中庭のベンチに座り、お弁当を一緒にいただく。
 食べ終えて片付けたあとは、どちらともなく寄り添い、庭を眺めた。
 花壇には花が咲き誇り、青い空には白い雲が浮かんでいる。こんな平和な時間が幸せで、だけどそのために失われたものがどうしても心にかかる。

「千代子さんの容態はいかがでしょう」
「体は順調に回復しているよ。精神のほうはまだ安定しなくてね。あやかしに取りつかれていた後遺症に加え、霊力を増幅させる薬を使っていた後遺症がある」

「私が癒しの力を使えばよくなるでしょうか」
「それはわからない。だけどまだダメだよ」
 医者である煌真の制止を押してまで治癒をする気にはなれなかった。もし暴れられたら危険だ。彼との子を危険にさらす気にはなれない。

「聞いたよ。君は彼女に毒を盛られたことがあったと」
「そのようです」
「無事でよかった。おそらくは君に癒しの力があったため、毒が無効化されたのだろうけど。霊力を抑える薬も盛られていたとか」