「彩雪さん、逃げて!」
「わ、わかりました」
 彩雪はすぐに逃げようとした。が、足が震えてうまく歩けない。
 彩雪を狙う蛇男に、とっさに煌真が銃を撃つ。
 銃声に、蛇男は動きを止めた。命中はしなかったが警戒しているようだ。

「逃がすか」
 千代子の口から男の声が響き、立ちはだかる。あやかしが体から抜け出ても、まだ操られているようだ。
 煌真はとっさに彩雪をかばい、千代子の後ろに回った幹雅が羽交い絞めにする。

「邪魔するな!」
 蛇男がしっぽをふるって煌真たちを薙ぎ払う。煌真は彩雪をかばってとびのき、間一髪で逃れた。
「我らの長が世を統べるために、お前たちを殺す」
 蛇男は憎々しげに煌真をにらむ。

「お前の力はすべてのあやかしを滅ぼしかねない。だが、子どものころのお前は親に守られていて簡単には殺せなかった。だから呪いをかけてやった。このまま一年もすれば死んだものを」
 彩雪ははっとする。あの霊力のこんがらかった結び目は、あやかしが作ったものだったのだ。

「なのに、その女が邪魔をした!」
 あやかしはぎりぎりと彩雪をにらむ。
「お前が呪いを解いていたんだろう。あの病院で見かけて、すぐにわかった」
 なにを言われているのかわからず、彩雪はただすくむ。

「お前も邪魔だ。癒しと同時に浄化をおこなう。そんな女は生かしておけない」
 彩雪は驚く。自分に浄化の力があるなんて初耳だ。

「どうして千代子さんに乗り移った?」
「お前の屋敷には結界があるが、人間にのりうつれば結界を越えられる。この女はお前に執着していたからな。簡単に騙せたよ」
 にたり、とあやかしは笑う。