「彩雪さん!」
 叫び声がして、騎馬が門を飛び越えて入って来た。続くもう一騎の騎馬は門の前で立ち往生をする。
「煌真さま!」
 千代子は彩雪を離し、大喜びで煌真の騎馬に駆け寄る。
 煌真は、だが、千代子を素通りして彩雪のそばに馬を寄せて降りる。

「大丈夫か」
「はい……」
 彩雪はほっと息をついた。
 煌真は珍しく軍服姿で、腰には拳銃を携えている。

「私が本部に呼ばれている間に千代子さんが脱走したと知らせが来て、慌ててこちらに来たんだ。間に合ってよかった」
 門では女中が鍵をあけ、もう一騎が入って来くるのが見えた。煌真の後輩の幹雅のようだ。
 馬を降りた幹雅は黙って状況を見守る。その後ろにいた女中は煌真と幹雅の馬のたずなを引いて離れた場所へと歩いて行く。

「煌真さま!」
 千代子の声に、煌真は彩雪を背後にかばって彼女に向き直る。
「どうしてそんなに彩雪さんに執着するんだ」
「煌真さまこそ、どうしてそんな女なんかに」
「私は彼女を愛している。」
 煌真の言葉に、彩雪は息を飲んだ。ほかの人がいる場面でこんなに断言されるなんて思ってもみなかった。

 千代子はぎらぎらと目をぎらつかせ、彩雪をにらむ。
「彩雪さん、彼女に癒しの力を使うことは可能か?」
 煌真が小声で聞いてくる。彩雪は緊張に身をすくませた。