「仕方ないから、そのあとも異能を封じる薬を飲ませてやったわ。お父様もお母様も、異能のないあんたをゴミみたいに扱って楽しいったらなかったわ!」
「そんな薬を……お父様が知ったらなんとおっしゃるか」

「お父様は知っていて放置していたのよ。お父様もあんたを憎んでたわ。子のほうが力が強いなんて親の恥だものね!」
 明かされた真実に、彩雪は愕然とした。

 父が異能を封じる薬を飲ませ、それでも異能を復活させようと修行をやらせたなんて。異能を強化する薬を飲まされたこともあったのに。
 自分はなんて無駄なことをして、無駄な祈りを捧げていたのだろう。あの家では自分の能力が復活することを、誰も望んでいなかったのだ。

「私は逆に異能を高める薬を飲んだの。薬を飲むだけでみんな私をちやほやしてくれたわ!」
 千代子はさも面白そうにけらけらと笑う。
「ダメよ、それは体への負担が大きいから使ってはいけないと言われていたものよね!?」
「お父様だって政府の高官を治癒するときには使ってるんだからいいのよ! あんたはこのまま死ぬんだから指図しないで!」
 千代子は懐から小瓶を出し、片手で器用に蓋をあけた。中の液体がちゃぷんと揺れる。

「これを飲むのよ。子どももろとも地獄に行くといいわ」
 彩雪は口を閉じ、両手で覆った。
「抵抗なんて無駄よ、あんたは死ぬの!」
 ぐい、とまた髪を引っ張られ、彩雪は痛みで顔をしかめた。

「煌真を殺すのに、お前は邪魔なんだよ!」
 千代子の声に、男の声が重なった。
 彩雪は横眼で千代子を窺い見る。が、そこにいるのは千代子ひとりきりだ。

 その耳に、遠くから馬のひずめの音が聞こえる。