「放しなさい!」
「今のうちに!」
女中の言葉に、彩雪は急いで歩き出す。走るのはお腹の子にどんな影響があるかわからず、怖かった。
そのまま玄関で靴に履き替え、外に出た。
陸軍病院に妹が来ていることを知らせた方がいいと思ったのだが。
「待ちなさい!」
追いかけて来る声に振り向くと、千代子が勢いよく走って来るのが見えた。とうてい妊婦とは思えない速度だ。髪を振り乱して走るその姿はもはや山姥だ。
彩雪は慌てて足を動かすが、あっという間に千代子に追い付かれた。長い髪をつかまれ、彩雪はつんのめる。
「離して!」
彩雪の願いは、だが、千代子には届かない。ぐい、と髪をひっぱられ、彩雪はのけぞる。千代子の手を離そうとするが、千代子は考えられないほどの強い力でつかんでいて無理そうだ。
「若奥様!」
追いついた女中が千代子の腕をつかむが、千代子はひとふりでそれをふり剥がし、女中は転げた。強く腰を打ったらしく、痛みに呻いてすぐには立てない。
「あんたなんか、あのときに死んでいれば良かったのに!」
「あのときって……」
「私が毒を盛ったとき! 熱を出しただけで死なないなんて、どれだけ命根性が汚いのよ!」
「毒……!?」
彩雪は唖然として言葉を無くした。
「今のうちに!」
女中の言葉に、彩雪は急いで歩き出す。走るのはお腹の子にどんな影響があるかわからず、怖かった。
そのまま玄関で靴に履き替え、外に出た。
陸軍病院に妹が来ていることを知らせた方がいいと思ったのだが。
「待ちなさい!」
追いかけて来る声に振り向くと、千代子が勢いよく走って来るのが見えた。とうてい妊婦とは思えない速度だ。髪を振り乱して走るその姿はもはや山姥だ。
彩雪は慌てて足を動かすが、あっという間に千代子に追い付かれた。長い髪をつかまれ、彩雪はつんのめる。
「離して!」
彩雪の願いは、だが、千代子には届かない。ぐい、と髪をひっぱられ、彩雪はのけぞる。千代子の手を離そうとするが、千代子は考えられないほどの強い力でつかんでいて無理そうだ。
「若奥様!」
追いついた女中が千代子の腕をつかむが、千代子はひとふりでそれをふり剥がし、女中は転げた。強く腰を打ったらしく、痛みに呻いてすぐには立てない。
「あんたなんか、あのときに死んでいれば良かったのに!」
「あのときって……」
「私が毒を盛ったとき! 熱を出しただけで死なないなんて、どれだけ命根性が汚いのよ!」
「毒……!?」
彩雪は唖然として言葉を無くした。



