翌日、彩雪はろくに眠れないまま夜明けを迎えた。
 睡眠が不充分なのはお腹の子によくないだろうが、目が冴えて眠れなかった。

 思うのはただひとりの妹、千代子。
 妊娠自体も不自然だが、やつれようが不自然すぎる。
 煌真への執着も異常だし、ますますあやかしの関与が考えられる状況になっていた。

 陸軍病院ならばあやかし起因の病気もよく診ているはずで、それでもまだ原因不明となっているところが謎だった。
 加えて、彼の霊力のからまりが再発していた。彼の生来の病気であるゆえなのか。ならば定期的に癒しの力を流入させなければ、彼が倒れてしまうのでは。

「彩雪さん?」
 藍子に声をかけられ、はっとした。
 気分転換にと居間で三時のおやつをいただいていたが、いつの間にか思考にふけっていたようだ。

「体調がお悪いなら横になられる?」
「大丈夫です」
 彩雪は首を振った。

「明日、また陸軍病院に伺ってもよろしいでしょうか。昨日もお伝えしましたが、煌真さまの霊力の流れが悪くなっているようですから」
「そうしていただけるかしら。あなたも無理をしないでね」
「はい」

「私は今夜、どうしても行かなくてはならない夜会があるの。おひとりで大丈夫?」
「大丈夫です。昨日はよく眠れなかったので、今日はきっとよく眠れます」
 彩雪はにっこりと笑う。通いの女中もひとり、遅くまで残ってくれることになっているから、きっと大丈夫だ。
 藍子は気遣うように笑みを返してくれた。