「ありがとう、彩雪さん。元気が出て来たよ」
「良かったです」
 彩雪はにっこりと笑顔を返す。

「ちょうどお昼休みなんだ。一緒に食べよう」
「よろしいのですか?」
「いいよ。外のベンチで食べよう」
 白衣を脱いだ彼の姿に、彩雪はどきっとした。
 腰にホルスターに入った拳銃があったからだ。

「煌真さま、それは……」
「ああ、ここは軍の病院だからね。念のための装備だよ」
 軽く答えられたが、彩雪は彼が医者とはいえ軍人なのだと、改めて思い知った心地だった。
 看護婦に外に行くと伝え、彼は彩雪とともに中庭に出る。
 外は快晴で、さわやかな空気が流れていた。
 木陰にあるベンチに行くと重箱を広げ、ふたりでいただく。

「あっれ、闇狩先生と奥様。愛妻弁当いいなあ」
 夜会にも来ていた幹雅が通り掛かり、声をかけられた。
「お前も結婚して妻に作ってもらえ」
「先輩、最近まで独身を貫くって言ってたのに、急にこれだもんなあ」
 あきれた口調に、彩雪はつい苦笑を漏らす。

「煌真さま、どちらですの?」
 声が響き、彩雪ははっとした。この声は、きっと千代子だ。
 顔を向けると、やはり千代子がいた。が、覚えのある姿とはかけはなれており、彩雪は愕然とする。
 入院着の浴衣を着た千代子の目は落ちくぼみ、頬はこけ、手足は細くなっていた。腹だけが臨月のように膨れている。