現在では軍があやかし討伐の役割を担っている。大規模な討伐は開国以来はおこなわれてはおらず、ときおり現れる程度となっていた。
「ひとまずは陸軍病院に来ていただき、診察を行います」
「それが良いだろうな。一般の病院よりもあやかしによる傷害に詳しい」
 政経が頷く。
 彩雪はただ聞いていることしかできなかった。

 夜に寝室に下がると、いつも以上に癒しの力を彼に送った。疲れて帰って来た彼に、なおさら疲れるような話があったのだから、少しでも癒されて欲しかった。
 翌夜、煌真は疲れ果てた顔で帰って来た。

「お帰りなさいませ」
 玄関で出迎えた彩雪は、ぎゅっと抱きしめられて戸惑う。
「どうされました?」
「今日は君の妹を診たが、君はよくあれに耐えたものだと感心する」
 妹、と言われて彩雪の体が強張った。

「いかがでしたの?」
「あやかしの仕業である確証は得られなかった。だが、念のために入院してもらった。異常事態なのは変わらないからね」
「そうなのですね」
「彩雪はなにも心配する必要はないよ。こちらで対処するからね」
 彼女は頷くことしかできなかった。

 翌日の夕方、後輩の幹雅が来て、煌真はしばらく病院に泊まり込むと知らせて来た。彼がいないと千代子が暴れるというのだ。
 心配することしかできないままに三日が過ぎたころだった。