千代子が煌真の子を宿した。
 その知らせはすぐに闇狩家にも届いた。
 藍子とともにそれを聞いた彩雪は倒れそうになるも、藍子に支えられて椅子に座り込むにとどまった。
 仕事から帰宅した煌真は玄関でその知らせを聞かされて居間に直行し、揃っていた妻と両親に否定をした。

「私は断じて彩雪さん以外と夜を共にしたことはない」
「もちろん、信じております」
 彩雪は確信をもってそう伝える。
 縁談では千代子は彼を嫌がっていて、結婚披露の夜会で初めて会ったのだ。夜会から一週間で子を宿したなどというのは話の辻褄が合わない。

「医者に診せたら本当に妊娠の兆候があったそうだ」
 政経が苦々しく言う。
「ほかの男性との子なのでしょうが、どうしてそんな嘘を?」
「いろいろおかしいの。煌真と夜を過ごしたのは夜会のあとだと言っているそうなの。それなのにお腹が出ているのですって。普通は五カ月くらいからよ。本人は煌真とつきあっているのだと信じ込んでいて、話の矛盾に気付いていないようなの」
 藍子がほとほと弱り果てたという様子で頬に手を当てる。

「あやかしの仕業かもしれませんね」
 煌真は顔を険しくした。
「あやかしはそんなこともするのですか?」
「そういう悪さをするあやかしを、我らは討伐してきたのです」
 あやかしは暗闇に潜んで人を害する。それらを狩るゆえに、彼の先祖は帝から『闇狩』の姓をたまわったのだ。