「今まで体調が悪いのが当たり前だったから、こんなに快適でいいのか逆に不安になるよ。この幸せな不安は君のおかげだ」
 彩雪は目を潤ませて彼を見上げる。と、優しい笑みが降って来て彩雪を包む。

「結婚式を挙げていなかったね。私の体調のせいで、申しわけない。今すぐに式を挙げるのは難しいが、あなたを披露する夜会だけでも開きたい」
「私を披露、ですか?」

「同僚や上司が妻を見せろとうるさくてね。夜会を開けば一度で済むと思うんだ。もちろん、君が嫌ならしない。見世物ではないのだから。ただ、みんなに君を自慢したいのも確かだ」
「自慢って」
 彩雪は照れてもじもじした。

「君の体調もあるから、無理する必要はないよ」
「いいえ、煌真さまの職場の方にお会いしとうございます」
 それもきっと妻の役目だ。まっとうに務めを果たして認められたい。

「無理のない範囲で準備を進めよう。ドレスも君の体に優しいものにしないとね」
 温かなまなざしに、彩雪は目を細めて頷いた。



 一か月後。
 闇狩家の広間には何人もの軍人や医者、その妻たちが訪れていた。
 彩雪は緊張しながら煌真の隣に立ち、煌真とともに挨拶をして回った。
 みなが優しそうな雰囲気で、挨拶を終えた彩雪はほっとした。
 政経と藍子はゲストと話をしていて、夜会は和やかに進んでいる。

 黒いスーツを身に着けた煌真を見て、彩雪はうっとりとした。彼のスタイルの良さが強調されて、見惚れるばかりだ。
 彩雪はエンパイアスタイルをベースにしたドレスを用意してもらっていた。幸いにもまだお腹が目立たず、すらりとして見える。エンパイアスタイルは本来、胸元が大きく開いているのが特徴だが、煌真が用意してくれたものは胸元に飾りがあって隠されているので、彩雪は安心して着ることができた。