彩雪に大変なことが起きた。
 玄関を入るなり女中に告げられた煌真は、慌てて彩雪がいる居間に向かった。
「彩雪さん! 大丈夫か!」
 ノックもせずにドアを大きく開け放ち、煌真は叫ぶ。

「あらあら、お行儀の悪い」
 藍子が眉をひそめ、彩雪は笑顔で煌真を迎える。
「おかえりなさいませ」
「大変なことが起きたと聞いた」
「ええ、大変です」
 彩雪はにこにこと答え、立ち上がって彼の手を取る。

「私、子どもを宿しました。あなたと私の子です」
 煌真は言葉を無くし、目を大きく見開いた。そのまま倒れ込むようにどさっと椅子に座った。

「煌真さま?」
「すまない、君になにがあったのかと心配して、今は喜びと安心で力が抜けた」
 彩雪は隣に座り、彼の手に自分の手を重ねる。
「煌真さまのお体がよくなりますように」
 祈るように彩雪がつぶやいたとき、体の中に波が立つような感覚があった。手の先からはほわりと黄金の光が漏れる。

「なにが?」
 煌真が驚きの声を上げ、彩雪もまた驚いて彼を見た。
「今、君の手からなにかの力が入って来るのを感じた」
「私も、癒しの力を使ったときのような感覚がございました」
「え?」
 居合わせた藍子が驚きの声を上げる。