「あなたはまったくわかっておられない」
 予想通りに否定され、彩雪はがくりと肩を落とした。
 力のない手をとられ、もう片方の彼の手が彩雪のおとがいをそっとすくって顔を上げさせる。

「私がどれほどあなたに触れたいと思っていたか」
 煌真の言葉に、彩雪は目を丸くする。

「もはや誰もが私を短命だと思い、あきらめていた。母は、ああは言っているが、心のどこかであきらめている。だから嫁をほしがっていた。私が生きた証、忘れ形見を残したがっていた。だが、あなたは違う。ただ真摯に私を助けようとしてくれた。その真心に、ひかれる一方だった」

 彩雪は言葉を継げなかった。彼も自分を思ってくれている、そんな奇跡があるだろうか。
 煌真はすっと跪き、彼女の手をとり、彼女を見上げる。

「彩雪さん。私と結婚していただけますか?」
 西洋の絵巻にあるようなプロポーズに、彩雪の胸は大きく脈打った。そのまま速くなる鼓動に、彼をただ見つめる。

「嬉しいです……」
 彩雪の言葉に彼は目を細め、立ち上がって彩雪を抱きしめる。
「あなたを愛することができるなど、そんな光栄なことはない」
 彼は扉を閉めて、彼女の髪に口づける。

 翌日、彩雪は煌真とともに夜明けを迎えた。
 窓から差し込む朝日は、ふたりの未来のように明るかった。



 ふたりが結婚の意思を固めたのを知った藍子は大喜びで癒島家に手紙を出した。
 癒島家からは、了解の旨をしたためたそっけない返事が来ただけだった。
 このまま煌真と幸せになれるのかもしれないと彩雪が思い始めたころ、彩雪の妊娠が判明した。