「夢か……」
 目覚めた彩雪はため息を零した。
 幸せだったころの夢は、現実に戻った落差で彩雪を苦しめる。
 かつては両親に大事にされ、南に面した一室を与えられ、なに不自由なく暮らしていた。
 十九歳になった今は北の物置でむしろを敷いて寝起きしている。女中ですら雑居とはいえ屋敷内に部屋があるのに、長女である自分はこの扱いだ。

 だけど、と彩雪は身支度をしながら思う。
 女中と一緒の部屋にいてもいじめられるだけだ。だったら物置のほうがよっぽどいい。

 物置から外に出ると、朝日がまぶしく目に刺さった。
 みんなはまだ寝ている。今のうちに朝食の準備をしないと、どれだけ罵られるかわからない。千代子に至ってはわざわざ呼び出して暴力を振るうことだろう。

 彩雪は鶏小屋から玉子を回収したあとに台所へ行き、まずはかまどで火を焚き、米を研いで炊いた。湯を沸かして鰹節を入れて出汁を作り、青菜を洗って切って鍋に入れる。沸いた出汁の中で、青菜が踊った。
 朝食は父、母、妹に加えて住み込みの女中が三人。自分を入れて七人分を用意しなくてはならない。昼ごはんは父の弟子の分も作らなくてはならない。

 玉子を焼き、大根をおろし、三人分の魚の干物を炙ってそれらを皿に盛った。女中と自分には魚をつけられない。青菜の汁は、両親と妹のぶんだけ豆腐を入れた。

 朝食を作り終えたタイミングで女中たちが現れた。彼女らは自分たちが作ったような顔をして膳に載せて座敷に運び、父たちに出す。
 自分のごはんは台所の板の間に座って女中たちと一緒にいただく。