「まだつらいですか?」
 彩雪は軽く首を振った。その拍子に涙が零れて枕を濡らす。
「では、なぜ涙を?」
 問われた彩雪は迷う。が、事情は調べがついている、と彼は言っていた。今さら隠すこともないだろう。

「私は以前、治癒の力がありました。ですが、子どものときの熱が原因で能力がなくなって、それからは厄介者扱いでした。風邪をひいても家事をさせられて、寝込んだら役立たずと言われて……だから、こうして休ませてもらえて、お医者さまに診てもらえて、それが嬉しいのです」
「つらかったですね」
 彼はそう言って優しく頭を撫でる。
 彩雪の瞳にはさらに大粒の涙が浮かび、ぽろぽろとこぼれる。

「すみません、こんな……」
「いいのですよ」
 優しい言葉につられるようにして、さらに涙がこぼれる。一度堰を切ったそれは止められず、彩雪は泣いた。
 ひとしきり泣いて落ち着いたあと、彩雪は彼を見る。
 美しい瞳に自分が映っているのを見て、胸には今まで感じたことのない炎が生まれていた。



 それからは彼の病状は落ち着き、彩雪も健康を取り戻した。
 滋養のつく料理を女中に教えてもらい、彼のために作った。
 藍子はそんな彩雪をほほえましく見守ってくれて、次第に居場所ができたように感じていた矢先だった。

 夕食後、客室で翌朝の献立を考えていた彩雪は、ドアをノックされて返事をする。
 扉を開けると、そこにいたのは煌真だった。