部屋を出た彩雪は、しおしおと自分の部屋に戻りかけ、ふと立ち止まる。
 やはり気になる。
 客としておいてもらうばかりで、なにもできていない。いつか出て行くだろうが、その前に少しでも役に立ちたい。

 思うと、いてもたってもいられなかった。
 藍子たちは優しい。主人が優しいからか、使用人の人たちも優しい。
 彼のために夜に外出するなど、きっと止められるだろう。
 だから彩雪はこっそり屋敷を出て、雨の中、薬を貰うために足を踏み出した。



 翌日、薬を飲んだ煌真の熱は下がって無事に出勤したのだが、かわりのように彩雪が熱を出した。
 大雨の中を薬を貰いに行ったためだ。びしょ濡れになって帰ってきたあとはすぐに着替えたものの、すでに体は冷えて風邪をひいたのだ。

 いっそ、彼の体調不良をひきとってかわりにこの世から去ることができたら、と思う。
 熱を出した彩雪には藍子がつきそってくれて、申しわけないとともに嬉しかった。実母がこのように看病してくれたのは小さい頃だけで、能力がなくなってからはまったくかまわれたことがなかった。

 幸せな気持ちでうとうとしてしまい、気が付いたら藍子はおらず、煌真がいた。
 窓の外はもう暗く、カーテンが閉められていた。枕元にある花の形の電気式ランプが、ほんのりと部屋を照らしている。
 彩雪は慌てて起きようとしたが、煌真は軽く手を上げてそれを制した。

「まだおやすみになっていてください」
「でも……」
「医者の私が休んでなさいと言うのですよ」
 そう言う彼の目は安心させるように孤を描いており、彩雪の目が潤む。実家では、寝込むと激しく罵倒され、熱があっても働かされていた。