余命一年の優美なる軍医は能力を無くした治癒師を溺愛する

「遠慮なさらないで」
 藍子の押しの強さに、彩雪は頷くしかなかった。
 お風呂をいただいて、千代子に持たせられた着替えを着て出て行くと、藍子はそれだけで驚きを見せた。

「彩雪さん、それはあなたの着物なの?」
「……はい」
 彩雪は恥ずかしくうつむいた。
 どこのともしれない古着で、裄丈(ゆきたけ)も身丈も合っていない。派手なだけの柄には品がなく、帯も同様だった。

「……そうなの」
 藍子は顔を険しくして、だから彩雪は余計に身をすくめる。
 煌真は女中に連れられて退室し、彩雪は藍子に連れられて客間へと案内された。

 ひとりで残された彩雪は、豪華なその部屋にため息をつく。
「この先、どうなるんだろう……」
 彩雪の胸にはただ不安が広がっていた。



 翌日の彩雪は戸惑いでいっぱいだった。
 朝早く起きて家事をしようとしたら、客にそんなことをさせられないと女中に止められた。
 朝食はダイニングで煌真たちと一緒にとるようにと言われたし、その後は書斎の本でも読んでくつろいでと言われた。

 昼食は洋食だったのでカトラリーの使い方がわからずに困った。
 怒られる、と身をすくめていたら、藍子が優しく教えてくれた。
 なにもかもが初めての待遇だ。