余命一年の優美なる軍医は能力を無くした治癒師を溺愛する

「あの、本日から嫁としてこちらにと聞いております」
「話が違う。見合いを申し込んだ段階だ」
 政経が驚きの声を上げ、藍子が困ったように頬に手を当てる。煌真は無表情で黙っていた。

 彩雪は顔を青ざめさせた。家ではもう結婚として話が進んでいた。このまま帰れば、結婚は失敗だったと思われるだろう。どれほどの折檻が待っているだろうか。
 思わず床に跪き、頭を床につくほど下げる。

「どうかこちらにおいてください。戻っては怒られてしまいます。使用人としておいていただくのでかいません。給金もいりません。どうか……!」
 息を飲む気配が伝わり、彩雪はなおさら頭をぐっと床につけた。

「お立ちになって、彩雪さん」
 藍子がすぐ隣に膝をつき、彩雪の背に手を置いた。その感触が優しくて、彩雪はおずおずと頭を上げる。

「事情がおありなのでしょう。今日はここにお泊りになって。いいですわよね、あなた」
 藍子が振り返り、政経が頷く。
「煌真も、いいわよね」
「かまわない」
 彼の答えは端的だった。

 その目がふと翳り、ふうっと苦しそうに息を吐いた。
「煌真、体調がよろしくないの?」
「大丈夫です」

「昨日も倒れたばかりじゃない。彩雪さん、煌真は失礼させていただきますね」
「はい」

「彩雪さんはお風呂をお召しになって。濡れていらっしゃるもの。御着替えはお持ち?」
「ありますが……」
 来たばかりでお風呂を言われるなんて思ってもみなかった。