※明紗と柚乃のクラスメイトの同級生の男子視点。明紗は高1の春~※
同じクラスの美の系譜が異なる女子2人の気品さえ感じる甘美な戯れ。
――それは僕の中で何かが音をたてて目覚めた瞬間だった。
僕はとりたて何の特徴もなく、そつなく15年の人生を歩んできた。
高校は都立の文武両道の名門校・朝比奈第三高に入学。
僕と同じクラスには入学初日から周りをざわつかせ、入学して間もないのに校内でその存在を知らない者はいないほどレベチに綺麗な弓木明紗という女子生徒が在籍している。
入学式では新入生代表挨拶をつとめていて、透明感のある整った顔立ちは、かわいらしさと大人びた美しさが併存していて、周囲の目線と心を自然とさらっていた。
しかも、スタイルもめちゃくちゃ良くて、常に男子は弓木さんがそこに佇んでいるだけで内心ドキドキさせられている。
本人は清楚で控えめなのに、弓木さんの存在そのものが人目を引いてしまっていた。
そして弓木さんといつも一緒にいるのが、綾瀬柚乃さん。
綾瀬さんも綾瀬さんで見た目はガチの典型的な美少女。
小柄なのに存在感は強く、色素の薄いセピア色のストレートヘアーに大きな瞳。
その愛らしい顔で辛辣なことを言うギャップが魅力的で。
完璧と言えるほど欠点がないのに不思議と守ってあげたくなるような静謐な美しさを誇る弓木さんと、強気だけど憎めない放っておけない雰囲気のある可愛らしい綾瀬さん。
二人が並ぶとクラス内だけではなく校内のどこにいたって自然と目立っていた。
「明紗ー。ユズ授業、疲れちゃった」
休み時間、綾瀬さんは弓木さんに甘えるように後ろから抱きついていた。
「うん。お疲れさま。柚乃」
「明紗。次の授業、何だっけ?」
「言語文化」
「課題、何か出てた?」
「出てないよ」
1年A組では4月にして見慣れた光景だし、弓木さんもスキンシップ激しめな綾瀬さんに慣れているのか後方から腕を回されたまま、動じずに淡々と机上の教科書類を片付けている。
そして男は誰もが思う。
――綾瀬さん、そこ代わってくれ、と。
「柚乃は明紗ちゃんに甘えすぎ」
「明紗ちゃんにばかり頼らないで少しは自分で管理しなよ」
「――やだー。明紗はユズのだもん」
他の女子からの忠告も無視で綾瀬さんは弓木さんの前側に回り込む。
綾瀬さんは正面から弓木さんに抱きつくなり、弓木さんの胸元に顔を埋めた。
綾瀬さんのほうが弓木さんより15センチは低身長。
制服のブレザー越しでもわかる弓木さんの立体感が際立った胸元の曲線や絶対に柔らかいだろう感触を綾瀬さんは堪能している。
――その瞬間、僕の中で何かが弾けた音がした。
「やばい」
「マジでうらやましい」
綾瀬さんに恨めしそうな視線を送る者、ただただ顔を赤らめる者、クラスメイトの男子たちの反応は様々だったけれど。
――尊すぎる!! この二人がいちゃついているところをもっと見たい!!
僕の脳内はそれしか考えられなくなっていた。
それから僕はこっそりとSNSに鍵付き裏アカウントを作成した。
実名でやっている各SNSの本アカとは別のもの。
誰もフォローせず、フォロワーはもちろん0人からの状態で。
僕は弓木さんと綾瀬さんの女の子同士の恋愛ストーリーの文章だけを投稿し始めた。
『……何で、柚乃は私に簡単に触れてくるの?』
『明紗は嫌だった?」
『……嫌じゃないから、困ってる……』
『ユズが簡単に明紗に触れてると思ってる?』
内容は”柚乃”の過剰なスキンシップに”明紗”は動じていないように見えて心と身体を乱されていく、いわゆる女子高生同士の”百合”だった。
どことなくミステリアスで学校一モテる美しい明紗と愛らしい美少女なのに毒舌な柚乃。
男子からの告白が絶えない明紗は誰に告白されても断っている高嶺の花的存在。
『私……どうしてこんなに柚乃のことばかり考えちゃうんだろう』
『私の気持ちを知られたら柚乃は離れてしまうかもしれない』
言葉には出来ない想いと、ひそやかに葛藤する明紗。
高校生的なイベントを通して、二人は近づいたり、すれ違ったり、接近したり、また遠ざかったりを繰り返す青春百合ラブストーリー。
その執筆を勉強の合間にして投稿を繰り返す。
これが僕にとって何よりの癒しと楽しみで、かえって勉強にも身が入るほど。
実際は5月に弓木さんも綾瀬さんも一つ年上のバレー部の男の先輩とそれぞれ付き合い始めて、周りの男たちはがっかりしていたけれど、それすら僕は自分の妄想に組み込んだ。
――彼氏を作ったのは二人の関係を隠すためのカムフラージュですよね、わかります!
筆がのりまくり……実際にはスマホでポチポチかキーボードをたたいているけれど、気がついたら投稿数もだいぶ大量になってきた。
「――これ、何?」
僕はクラスメイトの友人にスマホを貸した時に、投稿していたSNSのアプリをうっかり開きっぱなしにしていたらしい。
――終わった……。
僕の人生、ここで終わった。
クラスメイトの女子2人で百合の妄想を繰り広げまくっているなんて、みんなに知られたらどう思われるだろう。
何より弓木さんと綾瀬さん本人に知られたら……。
「この小説に出てくるのって弓木と綾瀬だよな?」
友人の台詞に顔面蒼白になりながら絶望に打ちひしがれる。
けれど、友人からの次の言葉は予期していないものだった。
「――もっと読みたい。裏アカ作るからフォローしていい?」
「……え?」
「ぶっちゃけ、弓木と綾瀬って二人とも絵になるし、セットで見ちゃうよな。距離感めっちゃ近いし、綾瀬が弓木にいろいろしてるの俺も見ながら実は興奮してたっていうか……」
秘密の花園のはずだった僕のSNSにフォロワーがついた。
そして、僕の同志が思いのほか多いらしく、口コミから口コミでフォロワーがずいぶん増えた。
――ついに二人のキスくる?
――さんざん焦らされたもんな。それが良かったけど。
――もう、ぶっちゃけ、こっちが現実であってほしいわ。
一人で妄想するのも楽しかったけど、読者の反応がモチベになる。
誰しもが弓木さんと綾瀬さんへの後ろめたさと僕との共犯関係だという自覚があるのか、僕のSNSが外部に漏れることはなく、ひそやかに盛り上がり続けていた。
【end】
※おまけの志恩視点。本編終了後の話※
――こんなに盛況なのか……。
スマホの画面内で繰り広げられる俺の彼女の柚乃と友人の弓木さんとの百合模様を丁寧に描いたラブストーリーが投稿されているSNS。
投稿主が三高の誰なのかは知らないけれど、秘匿されている完全に内輪受けだけの場所。
にも関わらず、フォロワー数が30超えてるってやばすぎるだろ。
仮に全員が男+三高の生徒だとして全校生徒の男子の何%を占めているのか……。
柚乃の影響ももちろんあるんだろうけど、こんなところでも弓木さんの人気を証明されているようだった。
この場所に集っている誰もが弓木さんが柚乃と恋愛関係であることに期待しすぎている。
そして、誰からも一切の悪意を感じない……。
純粋に柚乃と弓木さんの恋愛模様を楽しんでいる。
同じ男として全く気持ちがわからないかと言われれば、そうでもなかったりはするものの……。
このSNSの存在を俺が知った理由は自分の交友関係の広さのおかげだった。
柚乃に知られたら、面白がって読みそうではあるけれど、黙っているか。
弓木さんはもちろんのこと、蓮に知られるのが一番まずそうだった。
「――何? 志恩」
部活を終え、部室で制服へと着替えている蓮から視線を送られる。
「――いーや、何でも。寒いから早く帰ろう」
柚乃と弓木さんの百合小説には俺と蓮も実際と同様に彼氏として登場していた。
小説の中では二人の仲をカムフラージュするための彼氏役だったし、ストーリーの展開上で二人の関係をかき乱すのに必要な完全なる当て馬的ポジションだけど。
特に蓮はバレー部のエースで学校一モテる設定は現実から引き継がれていても、他校に何人も彼女がいて浮気を繰り返し、彼女である弓木さんを苦しめる男キャラとして描かれていた。
ストーリー上、蓮にだけ悪意のスパイスを感じるのは、実際に弓木さんの彼氏である蓮への嫉妬の感情が漏れ出てしまっているんだろう。
――実は蓮が誰よりも一途に弓木さんを好きで、大切に想っているんだけどな。
【end】
20260201
同じクラスの美の系譜が異なる女子2人の気品さえ感じる甘美な戯れ。
――それは僕の中で何かが音をたてて目覚めた瞬間だった。
僕はとりたて何の特徴もなく、そつなく15年の人生を歩んできた。
高校は都立の文武両道の名門校・朝比奈第三高に入学。
僕と同じクラスには入学初日から周りをざわつかせ、入学して間もないのに校内でその存在を知らない者はいないほどレベチに綺麗な弓木明紗という女子生徒が在籍している。
入学式では新入生代表挨拶をつとめていて、透明感のある整った顔立ちは、かわいらしさと大人びた美しさが併存していて、周囲の目線と心を自然とさらっていた。
しかも、スタイルもめちゃくちゃ良くて、常に男子は弓木さんがそこに佇んでいるだけで内心ドキドキさせられている。
本人は清楚で控えめなのに、弓木さんの存在そのものが人目を引いてしまっていた。
そして弓木さんといつも一緒にいるのが、綾瀬柚乃さん。
綾瀬さんも綾瀬さんで見た目はガチの典型的な美少女。
小柄なのに存在感は強く、色素の薄いセピア色のストレートヘアーに大きな瞳。
その愛らしい顔で辛辣なことを言うギャップが魅力的で。
完璧と言えるほど欠点がないのに不思議と守ってあげたくなるような静謐な美しさを誇る弓木さんと、強気だけど憎めない放っておけない雰囲気のある可愛らしい綾瀬さん。
二人が並ぶとクラス内だけではなく校内のどこにいたって自然と目立っていた。
「明紗ー。ユズ授業、疲れちゃった」
休み時間、綾瀬さんは弓木さんに甘えるように後ろから抱きついていた。
「うん。お疲れさま。柚乃」
「明紗。次の授業、何だっけ?」
「言語文化」
「課題、何か出てた?」
「出てないよ」
1年A組では4月にして見慣れた光景だし、弓木さんもスキンシップ激しめな綾瀬さんに慣れているのか後方から腕を回されたまま、動じずに淡々と机上の教科書類を片付けている。
そして男は誰もが思う。
――綾瀬さん、そこ代わってくれ、と。
「柚乃は明紗ちゃんに甘えすぎ」
「明紗ちゃんにばかり頼らないで少しは自分で管理しなよ」
「――やだー。明紗はユズのだもん」
他の女子からの忠告も無視で綾瀬さんは弓木さんの前側に回り込む。
綾瀬さんは正面から弓木さんに抱きつくなり、弓木さんの胸元に顔を埋めた。
綾瀬さんのほうが弓木さんより15センチは低身長。
制服のブレザー越しでもわかる弓木さんの立体感が際立った胸元の曲線や絶対に柔らかいだろう感触を綾瀬さんは堪能している。
――その瞬間、僕の中で何かが弾けた音がした。
「やばい」
「マジでうらやましい」
綾瀬さんに恨めしそうな視線を送る者、ただただ顔を赤らめる者、クラスメイトの男子たちの反応は様々だったけれど。
――尊すぎる!! この二人がいちゃついているところをもっと見たい!!
僕の脳内はそれしか考えられなくなっていた。
それから僕はこっそりとSNSに鍵付き裏アカウントを作成した。
実名でやっている各SNSの本アカとは別のもの。
誰もフォローせず、フォロワーはもちろん0人からの状態で。
僕は弓木さんと綾瀬さんの女の子同士の恋愛ストーリーの文章だけを投稿し始めた。
『……何で、柚乃は私に簡単に触れてくるの?』
『明紗は嫌だった?」
『……嫌じゃないから、困ってる……』
『ユズが簡単に明紗に触れてると思ってる?』
内容は”柚乃”の過剰なスキンシップに”明紗”は動じていないように見えて心と身体を乱されていく、いわゆる女子高生同士の”百合”だった。
どことなくミステリアスで学校一モテる美しい明紗と愛らしい美少女なのに毒舌な柚乃。
男子からの告白が絶えない明紗は誰に告白されても断っている高嶺の花的存在。
『私……どうしてこんなに柚乃のことばかり考えちゃうんだろう』
『私の気持ちを知られたら柚乃は離れてしまうかもしれない』
言葉には出来ない想いと、ひそやかに葛藤する明紗。
高校生的なイベントを通して、二人は近づいたり、すれ違ったり、接近したり、また遠ざかったりを繰り返す青春百合ラブストーリー。
その執筆を勉強の合間にして投稿を繰り返す。
これが僕にとって何よりの癒しと楽しみで、かえって勉強にも身が入るほど。
実際は5月に弓木さんも綾瀬さんも一つ年上のバレー部の男の先輩とそれぞれ付き合い始めて、周りの男たちはがっかりしていたけれど、それすら僕は自分の妄想に組み込んだ。
――彼氏を作ったのは二人の関係を隠すためのカムフラージュですよね、わかります!
筆がのりまくり……実際にはスマホでポチポチかキーボードをたたいているけれど、気がついたら投稿数もだいぶ大量になってきた。
「――これ、何?」
僕はクラスメイトの友人にスマホを貸した時に、投稿していたSNSのアプリをうっかり開きっぱなしにしていたらしい。
――終わった……。
僕の人生、ここで終わった。
クラスメイトの女子2人で百合の妄想を繰り広げまくっているなんて、みんなに知られたらどう思われるだろう。
何より弓木さんと綾瀬さん本人に知られたら……。
「この小説に出てくるのって弓木と綾瀬だよな?」
友人の台詞に顔面蒼白になりながら絶望に打ちひしがれる。
けれど、友人からの次の言葉は予期していないものだった。
「――もっと読みたい。裏アカ作るからフォローしていい?」
「……え?」
「ぶっちゃけ、弓木と綾瀬って二人とも絵になるし、セットで見ちゃうよな。距離感めっちゃ近いし、綾瀬が弓木にいろいろしてるの俺も見ながら実は興奮してたっていうか……」
秘密の花園のはずだった僕のSNSにフォロワーがついた。
そして、僕の同志が思いのほか多いらしく、口コミから口コミでフォロワーがずいぶん増えた。
――ついに二人のキスくる?
――さんざん焦らされたもんな。それが良かったけど。
――もう、ぶっちゃけ、こっちが現実であってほしいわ。
一人で妄想するのも楽しかったけど、読者の反応がモチベになる。
誰しもが弓木さんと綾瀬さんへの後ろめたさと僕との共犯関係だという自覚があるのか、僕のSNSが外部に漏れることはなく、ひそやかに盛り上がり続けていた。
【end】
※おまけの志恩視点。本編終了後の話※
――こんなに盛況なのか……。
スマホの画面内で繰り広げられる俺の彼女の柚乃と友人の弓木さんとの百合模様を丁寧に描いたラブストーリーが投稿されているSNS。
投稿主が三高の誰なのかは知らないけれど、秘匿されている完全に内輪受けだけの場所。
にも関わらず、フォロワー数が30超えてるってやばすぎるだろ。
仮に全員が男+三高の生徒だとして全校生徒の男子の何%を占めているのか……。
柚乃の影響ももちろんあるんだろうけど、こんなところでも弓木さんの人気を証明されているようだった。
この場所に集っている誰もが弓木さんが柚乃と恋愛関係であることに期待しすぎている。
そして、誰からも一切の悪意を感じない……。
純粋に柚乃と弓木さんの恋愛模様を楽しんでいる。
同じ男として全く気持ちがわからないかと言われれば、そうでもなかったりはするものの……。
このSNSの存在を俺が知った理由は自分の交友関係の広さのおかげだった。
柚乃に知られたら、面白がって読みそうではあるけれど、黙っているか。
弓木さんはもちろんのこと、蓮に知られるのが一番まずそうだった。
「――何? 志恩」
部活を終え、部室で制服へと着替えている蓮から視線を送られる。
「――いーや、何でも。寒いから早く帰ろう」
柚乃と弓木さんの百合小説には俺と蓮も実際と同様に彼氏として登場していた。
小説の中では二人の仲をカムフラージュするための彼氏役だったし、ストーリーの展開上で二人の関係をかき乱すのに必要な完全なる当て馬的ポジションだけど。
特に蓮はバレー部のエースで学校一モテる設定は現実から引き継がれていても、他校に何人も彼女がいて浮気を繰り返し、彼女である弓木さんを苦しめる男キャラとして描かれていた。
ストーリー上、蓮にだけ悪意のスパイスを感じるのは、実際に弓木さんの彼氏である蓮への嫉妬の感情が漏れ出てしまっているんだろう。
――実は蓮が誰よりも一途に弓木さんを好きで、大切に想っているんだけどな。
【end】
20260201



