八月第二週目の木曜日。
雨に降られて途中解散になった江ノ島の次の日。
今日はよく晴れて、雅也のサッカー部の試合の応援に千佳といく。
県大会の予選で、準決勝だ。負ければその時点で引退が確定する、毎回気を抜くことができない緊張の一戦だ。
念のため、美穂にも連絡をしてみたが案の定、「私はいいや、ありがとう。」と断られてしまった。
いつもの最寄駅で十一時に待ち合わせをする。
僕がちょうどに到着をして待っていると、十五分くらいして小走りで千佳がやってきた。
「ごめんごめん、お待たせ。部活が長引いちゃって急いで出てきた。」
そういうと、いつもは十シャツジーパンのスタイルがもはやトレードマークの千佳が、なんと今日はシャツに白い涼しげなロングスカートを履いてきた。
靴は黒いスニーカーでいつも通りだが、スカートがあるだけでこんなに違うのだと驚く。 揺れるポニーテールとスカートの表面が海から吹き上げた潮風になびいた。
なんとなく、そんな些細な動きが気になってしまう。
だが、なんかあった?と聞くのも野暮だろう。きっと好きな男でも出来てアピールをしたいのかもしれない。
そう言えば、今日の試合の主役である雅也と千佳は、夏祭りへ一緒に行っていた。もしかすると、いや、もう既に付き合っているのかもしれない。
なんてことを彼女が出来たことのない僕が、頭の中で考えをめくらせてしまうのはいつもの調子だがとりあえず聞いてみた。
「今日いつもと雰囲気違うね、どうかしたの?」
千佳は恥ずかしそうにへへへと言いながら照れ、嬉しそうにしていた。
「へぇー、よーすけもこういうのわかるんだ。てっきり鈍いのかと思ったよ。」
「…うるせぇ。いつもは同じジーパン履いてるから気がつくに決まってるよ。」
「いつも同じじゃないし!あと、スカートにしたのもなんでもないの!」
そういって、怒っていた。だが、本気では怒っていないらしくむしろ構ってもらって嬉しそうだった。
とりあえず、女子の見た目についてはなんとか言ってみるもんだ。
改札を抜けると、ちょうど電車がホームにやってきた。
―――
サッカーの試合会場は海沿いにある、人工芝のグラウンドだった。
海側は緑色のフェンスで囲まれており、海にボールが飛んでいかないように阻止する仕組みとなっていた。
対して、陸地側は近くに道路もないことから、ボールが転がっても危険にさらされることはない。
僕と千佳が会場につくと、既に本日の第一試合は前半が始まっており、第二試合以降の高校はコート外でウォームアップをしていた。
まだどの高校もユニフォームに着替えておらず、一瞬うちの高校がわからなかったが、ここら辺の高校では珍しい女性教師の顧問はうちの荒ちゃん先生くらいだ。
少し前の高校サッカー誌にも特集を組まれていたくらいの指導力に長けており、サッカー未経験にも関わらず女子バスケットボールで培った経験を生かしている。
「まだ足が上がってないよ!そんなんじゃ勝てないよ!」
甲高く、魂のこもった叫びがコート外で脚光を浴びていた。男子部員たちをはやし立てるように手を叩く。プラスチックのマーカーの間へ左右の足を順番にリズミカルに足踏みする練習をしていた彼らは、声に応えるように運動靴が地面を叩く音は加速する。
目標セット数までこなした彼らは通気性の良い練習着でも汗がひっつくほど体を温め、水筒の水を各々飲んでいる。
「よし、あとは体を冷やさないようにしっかり試合に備えること!前半と後半の間でコートが空いたらシュート練習をするからユニフォームに着替えておいてね。」
荒ちゃん先生の声に対して、一斉に返事をし、解散した。
汗を拭いながら今日が暑いのだの、相手の何番が要注意人物だの、話しながら部員の荷物が置いてある場所へゆっくり歩いていると、雅也がこっちに気がつく。
それまで話していた部員に断りを入れてこちらへ駆けてきた。
「おう、二人とも来てくれたんだな!美穂はやっぱ来なかったか?」
「ああ、誘ったけどダメだったな。」
僕は笑いながら、手のひらを顔の前で左右に振った。
「そうか、そりゃ残念だ。昨日の今日だしな。二人とも暑いから水分とって倒れないようにしてくれよ!」
日焼けで肌が茶色いのに対して、歯が白くように見えるほど輝いて満面の笑みを浮かべ、親指を立ててグーサインをする。
「それはこっちのセリフよ!かっこいいところ見せてよね!」
その様子を見て、千佳が拳で雅也の肩をこづく。
「わかってるよ!またな!」
雅也は荷物へ戻った。
「ああ見えて、アイツめちゃくちゃ緊張してるんだよな。」
僕はぼそっとつぶやく。
「あれ、そうだった?私から見ると普通だけど。」
千佳は不思議そうに首を傾げてこちらを覗く。
「なんでわかったの?中学時代の相棒の勘?」
「だってあいつの練習着、裏と表で逆だもん。」
そうして指の先には、靴を履き替えようとしている雅也の背中が見える。
背中には、好きなサッカー選手であろうユニフォームのレプリカを着ているが、数字の「3」が反対だ。
「ホントだ。教えてあげないよーすけもよーすけよね。」
久々に二人で笑った。
やっぱり、千佳といると楽しい。
最近は思春期だからか、以前より何故か中学生の頃のふざけ合ったり、笑い合ったりしていたことが気まずくなってしまった。
第一試合の前半が終わると、うちの高校と対戦相手の高校が半コートずつ練習をはじめた。
相手は昨年、県内の二位の大会常連校で、予選で戦ってきたこれまでの相手高校とは五点以上も差をつけて勝っている。
パス練習だけでも、連携の取れたパスワークはとても滑らかで目で追うのも難しいほどに緻密に計算されたプレーであることがわかる。
だが、こちらの高校も負けてはいない。
シュート練習を見る限り、様々な角度からゴールキーパーの止められない四隅を狙って打っており、向こうの高校にはない技術だ。
僕は久々のサッカーを目の当たりにして、少し興奮している。
声には出していないが、あの頃のスパイクが砂を踏みしめる感覚、埃っぽい匂い、ダボッとしたユニフォームの感覚、その全てが羨ましい。
でも、こうなることはわかっていた。試合を見に来ると、サッカーをまたやりたくなってしまう。
だから僕は見れないでいた。テレビでも、友達が出る試合でも。
いつからか、サッカーをするたびに苦しい感覚に襲われるようになった。
なんだか、だんだんと純粋に楽しめなくなってきたのだ。
すると、シュート練習でこぼれたボールが僕の足元に転がってきた。
顔を上げると、センターライン近くで両手を上げて声を出す雅也。
「おーい!パース!こっちー!」
僕はどうしても抑えきれなくなって、ボールを思いっきり蹴った。
しばらくのブランクがあったものの、見事に雅也の足元へ届く。
「おー!さすがだな相棒!サッカー部、入らねーか?」
相変わらず、誘ってくる。
「今からじゃ間に合わねえっつーの!俺の分まで頑張れ!」
僕は、内心嬉しかった。こんな時まで誘ってきてくれたことが。
それでも、途中で歩みを止めてしまった僕は、このコートに立つ資格はない。
だからこそ、今日は見に来たんだ。
―――
二つの高校がコートに一列に立ち、ホイッスルの合図で一斉にお辞儀をする。
県大会予選準決勝が今、始まった。うちの高校は赤いユニフォームで、相手の高校は青いユニフォームだ。
さっそく、赤い選手の攻撃陣から大声がした。それは、雅也だった。
彼はチームを指揮するため、がなり声でそれぞれの立ち位置を指図した。
度々、中学の頃からその気迫ある鋭い口調が、チームの中で喧嘩の火種になることもしばしばだったが、その先導する力は誰よりも強く、頼りになる存在だ。
対する青い選手たちは、華麗なパスワークを見せ、あっという間にボールを相手のゴール前に繋いでいく。
開始五分、さっそく青い選手がシュートを打つ。だが、うちのゴールキーパーを舐めてはいけない。彼は思いっきり肘から体をすべらせて、得点を阻止する。
炎天下、雲一つない空。じりじりと焼けるように差し込む日光が、着々と両選手たちの体力を削っていった。人工芝に散りばめられた黒いゴムチップが、昼下がりの暑さをより加速させる。
何本か危ない場面はあったものの、あっという間に前半が終わり両者得点を許さぬままとなっている。雅也はドリブルこそしたものの、シュートをした本数は一本もなかった。
選手たちは給水をしつつ、白いサンバイザーをつけた荒ちゃん先生の指示を真面目に聞いている。
「いや、何本もヒヤヒヤさせられたね。あと、めちゃくちゃあついね。」
汗を拭いながら、声が枯れそうなほど応援する千佳は右の手のひらをうちわ代わりにしてパタパタとさせながら、話しかけてきた。
シュートが打たれた瞬間やうちがボールを相手から奪ったときのリアクションは人一倍大きく、コート外へ転がったボールを選手が取りに行っている時間ですらも、「頑張れ!」だの「走れ!」だの声を出し続けていた。午前中にバレーボールの部活をやってきたとは思えない。
「ああ、千佳も水分とれよ。」
「ありがとう。飲み物が無くなったから買ってくる。場所取られないようにここで待ってて。なにか飲む?」
「そうだな、スポーツドリンクがいいな。ありがとう。」
「うん、待っててね!」
そういって、小走りで向かった。
スカートなのによく走れるなあと思いつつ、千佳が一緒に来てくれてよかったと心から思った。
多分、一人で見ていたらまるで自分が出場をしているような気持ちになり、気が気ではないだろう。隣で騒がしくしてくれるからこそ、いい意味で観客っぽく、楽観的に見ることが出来ているのだろう。
中学最後のサッカーの試合もこの会場だった。
その日も焼けるように暑く、海風が今日よりも強く吹いていた。
相手はこの地区で一番強いチーム。結果は三対二で負けてしまった。
うちの中学では史上最高記録の地区四位を叩き出し、ちょっとした話題になった。
そんな去年のことを思い出してここから見える陽炎のように揺らめく、海の水平線をぼーっとながめていると後ろから頬が急に冷たくなる。
驚いて、小さくはねて体をのけぞらせると、にっこりとして水滴がつくほど冷えたスポーツドリンクを当ててきた千佳がいた。
「なーにぼーっとしてんの。暑さで倒れちゃうよ。ほら、飲んで!」
「おう、ありがとう。びっくりしたよ。」
「思いの外びっくりしたから私もびっくりしちゃったよ。ほら、始めるみたいだよ。」
甘いスポーツドリンクを一口飲む。喉を潤しながら通り抜けるその冷気は体中に染み渡る気がした。冷えた呼吸を一回吐いたとき、後半開始のホイッスルが鳴る。
開始直後、青い選手がコート外から三人交代を要請した。
どうやら、相手も本気のメンバーで戦うようだ。
その中にはなんと、中学時代の当時に相手チームに所属し、最後敗北した試合で三点とった金髪の選手がいた。
その三人が交代で入ってからは状況が一変した。ボールは全く赤い選手たちには渡ることがなく、パスが青い選手の中で回されていく。
かろうじて、シュートをさせる前にボールを奪うものの、あっという間に奪われてしまい、また青い選手の中でパスが繋がっていた。
この試合、未だに雅也はシュートすら出来ていない。引き分けで持ちこたえているのが不思議なくらいだった。
すると、緊張の糸が切れたのか、後半の折り返し地点あたりで、青いユニフォームの例の金髪の選手がドリブルで三人交わし、シュートを打つ。
鋭いストレートのシュートは見事にゴール枠の右上、まさにゴールキーパーが届かない隅を狙ってゴールネットを揺らす。相手にリードを許す状況となった。
会場の空気は相手チームの流れになり、歓声が反対側から聞こえてくる。
「あちゃー…でも今のは上手かったよね。うん、しょうがない。」
隣で僕に話しているんだか、独り言なのかわからないくらいの声量で千佳がつぶやいている。そして、元気よく「つぎつぎー!頑張れー!」と声を出した。
徐々に太陽も傾いてきて、暑さが激しくなった。追いかける形となった赤い選手たちは、前方へパスを試みるもあっという間にボールを奪われてしまう。
何本かシュートを守るゴールキーパーも、度重なるシュートの応酬に加え、この暑さで怪我防止の長袖が体力の消耗となっている。
後半も残り五分。絶え間なく攻めてくる青い選手に対し、守るばかりの赤い選手。そして、未だに雅也のシュートはない。
「なんとか一点、取るだけでも延長戦に持ち込めるんだけどな…私までハラハラしちゃうよ。」
「ああ、そうだな。一点、雅也に決めてほしい。」
僕らはただただ、祈るだけだった。
荒ちゃん先生が腕時計を気にしている。どうやら試合終了の時間に近づいたようだ。
サッカーは、試合時間に加え、アディショナルタイムと呼ばれる試合が中断された時間を試合に追加するルールである。審判が試合終了のホイッスルを吹くまで緊張の時間が続く。
すると、ふとした拍子で青い選手がパスをミスしてしまった。そのほころびに食らいつくようにして、いつも昼休みのサッカー仲間である航平が飛び出し前方へとパスをした。
彼が雅也に向かって、ここからでも聞こえるほどの大声で叫ぶ。
「……雅也!決めてこい!!!」
よろけながら放たれたパスは見事に雅也の元へと繋がる。
相手は攻撃に人数を割いていたせいで、普段よりも守備の人数が少ない。
雅也は一人、また一人とドリブルでかわしていく。
審判がホイッスルを咥えた。このプレーが最後のプレーになるだろう。ボールが外に出た時点で試合が終わる。
雅也はわかっていただろう。彼にはこれまでの六年間のサッカー経験があるのだから。
それでも冷静に、最後の選手をかわした。
雅也はゴールに向かって走っていく。相手チームの残りはゴールキーパーのみとなった。
両手を大きく広げ、歯を食いしばり、口の両端から息を吐いているのがわかる。
雅也はリズミカルにボールを前に進めた。
そしてある程度の距離まで来たとき、ボールの横に踏み込み、右足を大きく振りかぶる。
「雅也、打て!」
僕は思わず叫ぶ。同時にボールは強烈なシュートとなって飛んだ。
その軌道は、雅也が得意な左隅。ゴールキーパーが届かないところだ。
本日最初のシュートとは思えないほど、鮮やかに狙った場所へと向かっていく。
雅也の放ったボールは、軽い金属音を響かせながらゴールの枠に当たり、外れた。
その瞬間、スローモーションのようにゆっくりとボールが外へ転がったのを見届けた審判は、ホイッスルを三回吹く。県大会予選、準決勝の試合終了の合図だった。
相手チームは喜びの歓声をコート内外から上げ、飛び跳ねた。
背番号「9番」、雅也はその場に膝から崩れ落ちる。その後ろ姿からも伝わる。
僕も中学最後のあの日、同じ感情になった。ああ、もうこの瞬間からこの部員で、このユニフォームで、サッカーができないんだなと。突然、日々を走り抜けるためのエンジンを取られてしまったような、そんな気持ちになる。
ベンチにいた部員たちは涙を流し、荒ちゃん先生は両手を腰に当ててサンバイザーで悔しがっている顔を隠していた。
夕方に差し掛かり、選手たち一人一人の影が人工芝に伸びていく。最後まで戦った選手たちは、審判を中心にそれぞれ横一列に並ぶとホイッスルの合図とともに一礼をする。
観客からはお疲れー!や頑張ったなー!という声援が拍手の中からも聞こえる。
隣にいた千佳も泣きそうな眼差しで頷きながら拍手を送っていた。
「うんうん、強い相手に頑張った、頑張った。私見にきてよかったよ。」
「ああ、そうだな。とてもいい試合だった。」
―――
「とりあえず、着替えてからミーティングするから。暑い中、お疲れ様。」
きっと荒ちゃん先生もツラいはずだ。それでも生徒の背中を押してあげなくてはいけない。やっぱりいい先生だ。
日焼けをした部員たちは、いつまでも今日のことが脳裏に焼き付いてきっと、忘れることはないだろう。
試合が終わり、荷物の置いてある場所へ部員たちは鼻を啜ったりうなだれながら歩いてきた。水筒やタオルをそれぞれの部員へ親たちが渡していた。
雅也には両親がいない。
そういう話題を聞くのが気まずい距離感でもなかったから、いつも聞いてみると、生まれた時からずっといないと言い張る。
だからこの時も寄り添う親もいない。
そのことに僕も千佳も気がついていた。だから、二人でキンキンに冷たくなったスポーツドリンクを彼の両頬に当ててやった。
びっくりした顔をして、こちらをみる雅也。
「おい、最後惜しかったな。でも、最初で最後のシュートをやっぱり得意の隅に狙うのはお前らしいよ。いい試合を見してくれてありがとう。」
「うんうん、サッカーあんまり見たことなかったけど、とっても楽しかった!いい試合をありがとうね!」
それまで何か考え事をしていたのか、反省をしていたのか、真面目な面持ちで下を向いていた雅也だったが、パァッと表情が明るくなったのがわかる。
しばらくして、練習着に着替えた部員たちは屋根のある休憩スペースのようなところで、体育座りで荒ちゃん先生の方を向いていた。
遠くで第三試合の始まる音がするのが聞こえるほど、その場は静かだった。
僕と千佳も少し離れて、その様子を見ている。
荒ちゃん先生が話し始めた。
「みんな、今日はお疲れ様。暑い中、誰も倒れずに走り続けてくれた。本当にありがとう。そして、」
「今日までありがとう。」
その言葉を聞いた時、上を向いて涙が流れるのを抑えた部員や膝に顔を埋めて隠す部員もいた。
「今日の相手はおそらく、今までで1番強かった。それなのに、心が折れずにずっと戦い続けてくれた。あと少し、と思い悔しがっているやつもいるかもしれない。それでも、この試合で得た経験をこれから先の人生でも大切にしてほしい。きっと、君たちを支えてくれるはず。なぜならこの経験は、君たちにしかできないのだから。」
女子マネージャーがハンカチで涙を拭う。
「今日まで一緒に、サッカーをさせてくれてありがとう。」
その言葉をもって、彼らの夏は終わった。
―――
そのあとはひとしきり泣いて、思い出話をした後は全員笑っていた。どうやらこの後みんなで夕食に行くらしい。
僕はその様子を見て羨ましいと感じる。だが、そこまで行くには度胸と時間が僕には足りなかった。
隣で千佳もその様子を見て微笑んでいた。彼女も引退をかけた試合が秋から始まる。わくわくと緊張とが隣り合わせになっているだろう。
だが、その集団の中に雅也はいなかった。最後のミーティングが解散した後、どうやら1人で帰ったようだ。
彼は一つのゴールを外したぐらいでは、落ち込むような男ではない。だが、今日はそっとしておいてあげよう。言葉にしなくとも、千佳とも同じ気持ちだった。
部員たちから、今日は応援に来てくれてほんとありがとうという言葉をもらい、打ち上げという名の晩御飯を食べに行く彼らと分かれる形で、千佳と僕は帰り道に進む。
燃えるような夕日が沈み、昼と夜の境目の赤紫色に染まる空。街灯がポツポツと点いて、試合会場の最寄駅へ歩き出した。
千佳はえらくサッカーの試合を気に入ったらしく、電車に乗ってもずっと、サッカーの話をしていた。
今度プロの試合も間近で見たいと言い出したかと思えば、今更「そういえば、オフサイドって何?」って聞いてきたのには流石に笑ってしまった。
夏休み真っ只中でも日曜日の夕方の車内は比較的空いていて、乗り換えの駅までは座ることができた。
午前中部活の練習をやってきたにも関わらず、午後は炎天下で試合を観戦していたハードスケジュールが流石の彼女もこたえたのか、まぶたを閉じてうとうととしていた。
時折、ブレーキで千佳の頭が僕の肩に寄りかかる。
なぜか高鳴る鼓動。
偶然、次が乗り換え駅だったためにすぐに起こした。
「あ、起こしてくれてありがとう。」
千佳は半分寝ているか寝ていないか際どい表情で、つぶやく。
もしそのまま寄りかかっていたのなら、僕は彼女に対してどんな感情を持っていたのだろうか。冷房で髪の毛が揺れていた。
あっという間に次の駅がいつもの最寄り駅だ。乗り換えてからずっとお互い話はせず、静まり返ったまま電車を降りて、夜道を歩いていく。
昔から夜道は暗いから、必ず千佳の家の前まで送ってから帰ることにしている。今日も「送ろうか?」とも聞かずに、勝手に足が進んでいる。
コツコツと互いの運動靴がコンクリートを踏み締め、横に並んで住宅街を進む。
「あのさ、来月バレーの試合なんだ。引退もかかってて、その、今年は強い代だから結構良いところまでいけると思うんだ。」
千佳がもじもじしながら話しかける。
「だからその、良かったら今日みたいに応援しにきてくれないかな。」
珍しく履いたスカートを指先で摘んで、いじりながら言う。
「ああ、いいよ。今日わかったけど、やっぱり友達が頑張ってるところを応援するってとってもいいよな。」
「……ともだち、ね。」
地面を見つめながら、気まずそうに笑って千佳はつぶやく。
そのあとはしばらく静かになった。相変わらず車通りのないこの道。当たり前のように道路の真ん中を歩いている。
千佳の家が見え始めた。そこから三つ手前の街灯で急に千佳は足を止めた。下唇を軽く噛み、何かを言いたそうにしている。なんだか険しい表情だ。
「どうした?体調でも悪い?」
心配して声をかけると、声を震わせながら、今度は今にも泣きそうな表情で言葉を紡ぎ始めた。
「あのね、よーすけ。その大切な友達で、昔からよーすけは私のそばにいて、それで、それが当たり前で。」
たどたどしく話している姿は、これから伝える台詞を出し惜しみしているようだった。僕は直感で、これはちゃんと聞かなくてはいけない。そう感じて、唾をのんだ。
「その当たり前が、この先も続けば良いなって思って。」
「うん、」
「昨日、また今度『みんなで』花火をしようって言ってくれたんだけど、その、」
「生まれて初めて、やっぱり私と二人きりが良い、って思っちゃって」
「うん。」
「だからねその、私、」
下を向いていた千佳が顔を上げた。
「よーすけが好き。」
まっすぐな眼差しで、できるだけ声を振り絞る。千佳の両手は腹部あたりの服を落ち着かない様子で握りしめ、気持ちを押し出した反動のように小刻みに肩で息をしていた。
人生で初めて告白された。僕はその言葉に触れ、初めて温かいような熱いような、不思議な感覚が体を波打たせる感覚に包まれる。
今まで千佳をそんな風に考えてはいなかった。かと言って、ないがしろにしていたわけでもなく、ただただ、驚きを覚えた。
もちろん、僕も好きだ。これまで誰よりも一番そばで、一番長く時間を共にした。嬉しさが込み上げたと同時に、雅也と浴衣を着て歩く姿を思い出す。果たしてこの好き、というのはそういう好きなのか。
僕は頭を巡らせ呼吸を整えると、なんとかして浮かんだ言葉を伝える。
「うん、その、」
僕が話終らないうちに、千佳は遮るように千佳が話し出す。
「あっ、今すぐに答えを出して欲しいわけじゃないから!……できればこの夏休みのうちに返事くれたら、嬉しい。」
「うん、わかった。ありがとうね。」
「こちらこそ聞いてくれてありがとう!また今度、会おうね!」
そう言って、そそくさと千佳は家の中に入って行った。
しばらくその場でぽかんと立ち尽くすと、我に返って自分の家へ進む。
ここから二つ隣の通り、すぐ近くに僕の家はある。でも今日は、そこまでがなんとなく、遠く感じる。
今までの距離を、僕らは越えようとしている。これまでの距離が心に体に染み付いて、恋人という距離が予想できない。そして、なぜかそれ以上にきっと、違う何かの理由で、僕は答えを出せずにいる。
千佳はそれを望んで、勇気を持って想いを伝えてくれた。その気持ちに応えられるだろうか。応えていいのだろうか。
ふと、ポケットの携帯に目をやった。画面が光り、通知が一つ来ていた。
「昨日はありがとうね。途中で帰っちゃってごめん。千佳から聞いたよ、雅也くん残念だったね。今日も誘ってくれたのにごめんね。」
美穂さんからだった。いつも彼女の文章には、「!」を使って元気な連絡をくれるはずなのに、今日は違った。
「明日は金曜日、またいつもの図書館で会おうね。おやすみ。」
彼女からの連絡はこれだけだった。
僕は立ち止まる。この感情はなんだろう。
そうか。僕は。
―――
「おかえりー、今日暑かったでしょ!雅也くんの試合、どうだった?」
母さんが台所からひょっこりと顔を出す。
にんじんを銀杏切りにしているところで、すでに切り終わったジャガイモや玉ねぎを見ると、シチューかカレーか、あるいは肉じゃがといったところだろうか。
「うん、延長まで行ったけどPKで負けちゃった。」
「そっかー、それは残念だったねー。でも、見に行けてよかったわね。お風呂が湧いているから先に入っちゃいなさいー。あとお風呂出たら洗濯物畳んでおいて!」
換気扇の音に負けじと声を張る母は、毎日仕事を終えてもこうして家事をやってくれている。いつか一人暮らしをして、仕事から帰ってきてからの家事なんて出来るはずはない。つくづく母の凄さに頭が上がらない。
少し肌寒くなった夜風の後の湯船は、末端から徐々に温めてくれる。そんな気がした。
浴槽から片腕をだらんと伸ばし、天井に三つ信号機の並び方でついた黒い斑点のシミをぼんやり眺めながら考える。
青春はもっと、爽やかで、どきどきして、甘酸っぱいものだと思っていた。色に例えると透き通った水色だ。清涼飲料水のCMでも屋上で寝そべるところに声をかける女子や、プールの掃除ではしゃいでいた。
でも、ウチの高校では屋上も使用禁止でプールも業者が掃除をしている。そして、今日の帰り道には戸惑いと迷いとが交差している。意外と青春の「青」はパステルカラーというよりかは原色の水色に近いようだ。
湯船は体を浮かせ、脱力感を与える。なんというか、この心地よさを美穂さんと話していると感じる。まるでどこかで会ったことがあるような。
―――
濡れ髪で洗濯物を畳み、バスタオルを肩にかけて頭を拭きながらリビングへ行くと、香辛料の香りがしてきた。先に食べ始めていた母さんは、缶ビールを片手に頬杖をつく。
目線の先にはクイズ番組がテレビに映っていた。
「アウトドアの豆知識」と題して、着火剤の代用となる日用品のクイズだった。リードをしている赤チームが正解したのに対し、青チームは連続不正解を叩き出し、大きく差が開いて負けている。
最後のコーナーとなっており、今までの数倍の点数が与えられるようになっていた。青チームにも逆転のチャンスがあるらしい。よくある展開だ。
緑と白のランチョンマットの中心に並べられた母の得意料理である、カレー。この中辛が美味しいのだ。
「母さんはなんで、父さんと一緒になったの?」
ふと聞いてみる。
「あら、父さんのこと聞いてくるなんて珍しいね?なんかあった?」
急にこちらに解答権が返ってきたが、「なんとなく」といってさらりと交わした。母さんはふーん、と言った顔をして答える。
「そうねぇ、あの人は日本中を救っている人なのよ。なのに、目の前の私もちゃんと愛してくれたことかな。」
いつもより落ち着いた声で言った。その言葉がなぜか、体にじんわりと染み込む。まだ恋とか愛とか僕はわからない。それでも思っていたよりも普通で、安心するものなのだと直感的にわかった。
「なんか、改めて言うと恥ずかしいわね。」
酔いが回っているのか、少し照れているのか、頬を珍しく赤らめて饒舌になって話し続ける。
「そんなもんなのかという顔をしてるけど、そんなもんなのよ。あんたがいつか、大切にしたいものがわかった時、ちゃんとそのタイミングで自分の心を大切にしてあげなさい。それが一番大事なの。」
どうやら顔に出ていたみたいだ。
いつの間にかクイズ番組は逆転優勝をしており、赤チームが悔しがっていた。
不動の優勝を確信していても、いつでも何事も、勝利はタイミング次第だ。
―――
雨に降られて途中解散になった江ノ島の次の日。
今日はよく晴れて、雅也のサッカー部の試合の応援に千佳といく。
県大会の予選で、準決勝だ。負ければその時点で引退が確定する、毎回気を抜くことができない緊張の一戦だ。
念のため、美穂にも連絡をしてみたが案の定、「私はいいや、ありがとう。」と断られてしまった。
いつもの最寄駅で十一時に待ち合わせをする。
僕がちょうどに到着をして待っていると、十五分くらいして小走りで千佳がやってきた。
「ごめんごめん、お待たせ。部活が長引いちゃって急いで出てきた。」
そういうと、いつもは十シャツジーパンのスタイルがもはやトレードマークの千佳が、なんと今日はシャツに白い涼しげなロングスカートを履いてきた。
靴は黒いスニーカーでいつも通りだが、スカートがあるだけでこんなに違うのだと驚く。 揺れるポニーテールとスカートの表面が海から吹き上げた潮風になびいた。
なんとなく、そんな些細な動きが気になってしまう。
だが、なんかあった?と聞くのも野暮だろう。きっと好きな男でも出来てアピールをしたいのかもしれない。
そう言えば、今日の試合の主役である雅也と千佳は、夏祭りへ一緒に行っていた。もしかすると、いや、もう既に付き合っているのかもしれない。
なんてことを彼女が出来たことのない僕が、頭の中で考えをめくらせてしまうのはいつもの調子だがとりあえず聞いてみた。
「今日いつもと雰囲気違うね、どうかしたの?」
千佳は恥ずかしそうにへへへと言いながら照れ、嬉しそうにしていた。
「へぇー、よーすけもこういうのわかるんだ。てっきり鈍いのかと思ったよ。」
「…うるせぇ。いつもは同じジーパン履いてるから気がつくに決まってるよ。」
「いつも同じじゃないし!あと、スカートにしたのもなんでもないの!」
そういって、怒っていた。だが、本気では怒っていないらしくむしろ構ってもらって嬉しそうだった。
とりあえず、女子の見た目についてはなんとか言ってみるもんだ。
改札を抜けると、ちょうど電車がホームにやってきた。
―――
サッカーの試合会場は海沿いにある、人工芝のグラウンドだった。
海側は緑色のフェンスで囲まれており、海にボールが飛んでいかないように阻止する仕組みとなっていた。
対して、陸地側は近くに道路もないことから、ボールが転がっても危険にさらされることはない。
僕と千佳が会場につくと、既に本日の第一試合は前半が始まっており、第二試合以降の高校はコート外でウォームアップをしていた。
まだどの高校もユニフォームに着替えておらず、一瞬うちの高校がわからなかったが、ここら辺の高校では珍しい女性教師の顧問はうちの荒ちゃん先生くらいだ。
少し前の高校サッカー誌にも特集を組まれていたくらいの指導力に長けており、サッカー未経験にも関わらず女子バスケットボールで培った経験を生かしている。
「まだ足が上がってないよ!そんなんじゃ勝てないよ!」
甲高く、魂のこもった叫びがコート外で脚光を浴びていた。男子部員たちをはやし立てるように手を叩く。プラスチックのマーカーの間へ左右の足を順番にリズミカルに足踏みする練習をしていた彼らは、声に応えるように運動靴が地面を叩く音は加速する。
目標セット数までこなした彼らは通気性の良い練習着でも汗がひっつくほど体を温め、水筒の水を各々飲んでいる。
「よし、あとは体を冷やさないようにしっかり試合に備えること!前半と後半の間でコートが空いたらシュート練習をするからユニフォームに着替えておいてね。」
荒ちゃん先生の声に対して、一斉に返事をし、解散した。
汗を拭いながら今日が暑いのだの、相手の何番が要注意人物だの、話しながら部員の荷物が置いてある場所へゆっくり歩いていると、雅也がこっちに気がつく。
それまで話していた部員に断りを入れてこちらへ駆けてきた。
「おう、二人とも来てくれたんだな!美穂はやっぱ来なかったか?」
「ああ、誘ったけどダメだったな。」
僕は笑いながら、手のひらを顔の前で左右に振った。
「そうか、そりゃ残念だ。昨日の今日だしな。二人とも暑いから水分とって倒れないようにしてくれよ!」
日焼けで肌が茶色いのに対して、歯が白くように見えるほど輝いて満面の笑みを浮かべ、親指を立ててグーサインをする。
「それはこっちのセリフよ!かっこいいところ見せてよね!」
その様子を見て、千佳が拳で雅也の肩をこづく。
「わかってるよ!またな!」
雅也は荷物へ戻った。
「ああ見えて、アイツめちゃくちゃ緊張してるんだよな。」
僕はぼそっとつぶやく。
「あれ、そうだった?私から見ると普通だけど。」
千佳は不思議そうに首を傾げてこちらを覗く。
「なんでわかったの?中学時代の相棒の勘?」
「だってあいつの練習着、裏と表で逆だもん。」
そうして指の先には、靴を履き替えようとしている雅也の背中が見える。
背中には、好きなサッカー選手であろうユニフォームのレプリカを着ているが、数字の「3」が反対だ。
「ホントだ。教えてあげないよーすけもよーすけよね。」
久々に二人で笑った。
やっぱり、千佳といると楽しい。
最近は思春期だからか、以前より何故か中学生の頃のふざけ合ったり、笑い合ったりしていたことが気まずくなってしまった。
第一試合の前半が終わると、うちの高校と対戦相手の高校が半コートずつ練習をはじめた。
相手は昨年、県内の二位の大会常連校で、予選で戦ってきたこれまでの相手高校とは五点以上も差をつけて勝っている。
パス練習だけでも、連携の取れたパスワークはとても滑らかで目で追うのも難しいほどに緻密に計算されたプレーであることがわかる。
だが、こちらの高校も負けてはいない。
シュート練習を見る限り、様々な角度からゴールキーパーの止められない四隅を狙って打っており、向こうの高校にはない技術だ。
僕は久々のサッカーを目の当たりにして、少し興奮している。
声には出していないが、あの頃のスパイクが砂を踏みしめる感覚、埃っぽい匂い、ダボッとしたユニフォームの感覚、その全てが羨ましい。
でも、こうなることはわかっていた。試合を見に来ると、サッカーをまたやりたくなってしまう。
だから僕は見れないでいた。テレビでも、友達が出る試合でも。
いつからか、サッカーをするたびに苦しい感覚に襲われるようになった。
なんだか、だんだんと純粋に楽しめなくなってきたのだ。
すると、シュート練習でこぼれたボールが僕の足元に転がってきた。
顔を上げると、センターライン近くで両手を上げて声を出す雅也。
「おーい!パース!こっちー!」
僕はどうしても抑えきれなくなって、ボールを思いっきり蹴った。
しばらくのブランクがあったものの、見事に雅也の足元へ届く。
「おー!さすがだな相棒!サッカー部、入らねーか?」
相変わらず、誘ってくる。
「今からじゃ間に合わねえっつーの!俺の分まで頑張れ!」
僕は、内心嬉しかった。こんな時まで誘ってきてくれたことが。
それでも、途中で歩みを止めてしまった僕は、このコートに立つ資格はない。
だからこそ、今日は見に来たんだ。
―――
二つの高校がコートに一列に立ち、ホイッスルの合図で一斉にお辞儀をする。
県大会予選準決勝が今、始まった。うちの高校は赤いユニフォームで、相手の高校は青いユニフォームだ。
さっそく、赤い選手の攻撃陣から大声がした。それは、雅也だった。
彼はチームを指揮するため、がなり声でそれぞれの立ち位置を指図した。
度々、中学の頃からその気迫ある鋭い口調が、チームの中で喧嘩の火種になることもしばしばだったが、その先導する力は誰よりも強く、頼りになる存在だ。
対する青い選手たちは、華麗なパスワークを見せ、あっという間にボールを相手のゴール前に繋いでいく。
開始五分、さっそく青い選手がシュートを打つ。だが、うちのゴールキーパーを舐めてはいけない。彼は思いっきり肘から体をすべらせて、得点を阻止する。
炎天下、雲一つない空。じりじりと焼けるように差し込む日光が、着々と両選手たちの体力を削っていった。人工芝に散りばめられた黒いゴムチップが、昼下がりの暑さをより加速させる。
何本か危ない場面はあったものの、あっという間に前半が終わり両者得点を許さぬままとなっている。雅也はドリブルこそしたものの、シュートをした本数は一本もなかった。
選手たちは給水をしつつ、白いサンバイザーをつけた荒ちゃん先生の指示を真面目に聞いている。
「いや、何本もヒヤヒヤさせられたね。あと、めちゃくちゃあついね。」
汗を拭いながら、声が枯れそうなほど応援する千佳は右の手のひらをうちわ代わりにしてパタパタとさせながら、話しかけてきた。
シュートが打たれた瞬間やうちがボールを相手から奪ったときのリアクションは人一倍大きく、コート外へ転がったボールを選手が取りに行っている時間ですらも、「頑張れ!」だの「走れ!」だの声を出し続けていた。午前中にバレーボールの部活をやってきたとは思えない。
「ああ、千佳も水分とれよ。」
「ありがとう。飲み物が無くなったから買ってくる。場所取られないようにここで待ってて。なにか飲む?」
「そうだな、スポーツドリンクがいいな。ありがとう。」
「うん、待っててね!」
そういって、小走りで向かった。
スカートなのによく走れるなあと思いつつ、千佳が一緒に来てくれてよかったと心から思った。
多分、一人で見ていたらまるで自分が出場をしているような気持ちになり、気が気ではないだろう。隣で騒がしくしてくれるからこそ、いい意味で観客っぽく、楽観的に見ることが出来ているのだろう。
中学最後のサッカーの試合もこの会場だった。
その日も焼けるように暑く、海風が今日よりも強く吹いていた。
相手はこの地区で一番強いチーム。結果は三対二で負けてしまった。
うちの中学では史上最高記録の地区四位を叩き出し、ちょっとした話題になった。
そんな去年のことを思い出してここから見える陽炎のように揺らめく、海の水平線をぼーっとながめていると後ろから頬が急に冷たくなる。
驚いて、小さくはねて体をのけぞらせると、にっこりとして水滴がつくほど冷えたスポーツドリンクを当ててきた千佳がいた。
「なーにぼーっとしてんの。暑さで倒れちゃうよ。ほら、飲んで!」
「おう、ありがとう。びっくりしたよ。」
「思いの外びっくりしたから私もびっくりしちゃったよ。ほら、始めるみたいだよ。」
甘いスポーツドリンクを一口飲む。喉を潤しながら通り抜けるその冷気は体中に染み渡る気がした。冷えた呼吸を一回吐いたとき、後半開始のホイッスルが鳴る。
開始直後、青い選手がコート外から三人交代を要請した。
どうやら、相手も本気のメンバーで戦うようだ。
その中にはなんと、中学時代の当時に相手チームに所属し、最後敗北した試合で三点とった金髪の選手がいた。
その三人が交代で入ってからは状況が一変した。ボールは全く赤い選手たちには渡ることがなく、パスが青い選手の中で回されていく。
かろうじて、シュートをさせる前にボールを奪うものの、あっという間に奪われてしまい、また青い選手の中でパスが繋がっていた。
この試合、未だに雅也はシュートすら出来ていない。引き分けで持ちこたえているのが不思議なくらいだった。
すると、緊張の糸が切れたのか、後半の折り返し地点あたりで、青いユニフォームの例の金髪の選手がドリブルで三人交わし、シュートを打つ。
鋭いストレートのシュートは見事にゴール枠の右上、まさにゴールキーパーが届かない隅を狙ってゴールネットを揺らす。相手にリードを許す状況となった。
会場の空気は相手チームの流れになり、歓声が反対側から聞こえてくる。
「あちゃー…でも今のは上手かったよね。うん、しょうがない。」
隣で僕に話しているんだか、独り言なのかわからないくらいの声量で千佳がつぶやいている。そして、元気よく「つぎつぎー!頑張れー!」と声を出した。
徐々に太陽も傾いてきて、暑さが激しくなった。追いかける形となった赤い選手たちは、前方へパスを試みるもあっという間にボールを奪われてしまう。
何本かシュートを守るゴールキーパーも、度重なるシュートの応酬に加え、この暑さで怪我防止の長袖が体力の消耗となっている。
後半も残り五分。絶え間なく攻めてくる青い選手に対し、守るばかりの赤い選手。そして、未だに雅也のシュートはない。
「なんとか一点、取るだけでも延長戦に持ち込めるんだけどな…私までハラハラしちゃうよ。」
「ああ、そうだな。一点、雅也に決めてほしい。」
僕らはただただ、祈るだけだった。
荒ちゃん先生が腕時計を気にしている。どうやら試合終了の時間に近づいたようだ。
サッカーは、試合時間に加え、アディショナルタイムと呼ばれる試合が中断された時間を試合に追加するルールである。審判が試合終了のホイッスルを吹くまで緊張の時間が続く。
すると、ふとした拍子で青い選手がパスをミスしてしまった。そのほころびに食らいつくようにして、いつも昼休みのサッカー仲間である航平が飛び出し前方へとパスをした。
彼が雅也に向かって、ここからでも聞こえるほどの大声で叫ぶ。
「……雅也!決めてこい!!!」
よろけながら放たれたパスは見事に雅也の元へと繋がる。
相手は攻撃に人数を割いていたせいで、普段よりも守備の人数が少ない。
雅也は一人、また一人とドリブルでかわしていく。
審判がホイッスルを咥えた。このプレーが最後のプレーになるだろう。ボールが外に出た時点で試合が終わる。
雅也はわかっていただろう。彼にはこれまでの六年間のサッカー経験があるのだから。
それでも冷静に、最後の選手をかわした。
雅也はゴールに向かって走っていく。相手チームの残りはゴールキーパーのみとなった。
両手を大きく広げ、歯を食いしばり、口の両端から息を吐いているのがわかる。
雅也はリズミカルにボールを前に進めた。
そしてある程度の距離まで来たとき、ボールの横に踏み込み、右足を大きく振りかぶる。
「雅也、打て!」
僕は思わず叫ぶ。同時にボールは強烈なシュートとなって飛んだ。
その軌道は、雅也が得意な左隅。ゴールキーパーが届かないところだ。
本日最初のシュートとは思えないほど、鮮やかに狙った場所へと向かっていく。
雅也の放ったボールは、軽い金属音を響かせながらゴールの枠に当たり、外れた。
その瞬間、スローモーションのようにゆっくりとボールが外へ転がったのを見届けた審判は、ホイッスルを三回吹く。県大会予選、準決勝の試合終了の合図だった。
相手チームは喜びの歓声をコート内外から上げ、飛び跳ねた。
背番号「9番」、雅也はその場に膝から崩れ落ちる。その後ろ姿からも伝わる。
僕も中学最後のあの日、同じ感情になった。ああ、もうこの瞬間からこの部員で、このユニフォームで、サッカーができないんだなと。突然、日々を走り抜けるためのエンジンを取られてしまったような、そんな気持ちになる。
ベンチにいた部員たちは涙を流し、荒ちゃん先生は両手を腰に当ててサンバイザーで悔しがっている顔を隠していた。
夕方に差し掛かり、選手たち一人一人の影が人工芝に伸びていく。最後まで戦った選手たちは、審判を中心にそれぞれ横一列に並ぶとホイッスルの合図とともに一礼をする。
観客からはお疲れー!や頑張ったなー!という声援が拍手の中からも聞こえる。
隣にいた千佳も泣きそうな眼差しで頷きながら拍手を送っていた。
「うんうん、強い相手に頑張った、頑張った。私見にきてよかったよ。」
「ああ、そうだな。とてもいい試合だった。」
―――
「とりあえず、着替えてからミーティングするから。暑い中、お疲れ様。」
きっと荒ちゃん先生もツラいはずだ。それでも生徒の背中を押してあげなくてはいけない。やっぱりいい先生だ。
日焼けをした部員たちは、いつまでも今日のことが脳裏に焼き付いてきっと、忘れることはないだろう。
試合が終わり、荷物の置いてある場所へ部員たちは鼻を啜ったりうなだれながら歩いてきた。水筒やタオルをそれぞれの部員へ親たちが渡していた。
雅也には両親がいない。
そういう話題を聞くのが気まずい距離感でもなかったから、いつも聞いてみると、生まれた時からずっといないと言い張る。
だからこの時も寄り添う親もいない。
そのことに僕も千佳も気がついていた。だから、二人でキンキンに冷たくなったスポーツドリンクを彼の両頬に当ててやった。
びっくりした顔をして、こちらをみる雅也。
「おい、最後惜しかったな。でも、最初で最後のシュートをやっぱり得意の隅に狙うのはお前らしいよ。いい試合を見してくれてありがとう。」
「うんうん、サッカーあんまり見たことなかったけど、とっても楽しかった!いい試合をありがとうね!」
それまで何か考え事をしていたのか、反省をしていたのか、真面目な面持ちで下を向いていた雅也だったが、パァッと表情が明るくなったのがわかる。
しばらくして、練習着に着替えた部員たちは屋根のある休憩スペースのようなところで、体育座りで荒ちゃん先生の方を向いていた。
遠くで第三試合の始まる音がするのが聞こえるほど、その場は静かだった。
僕と千佳も少し離れて、その様子を見ている。
荒ちゃん先生が話し始めた。
「みんな、今日はお疲れ様。暑い中、誰も倒れずに走り続けてくれた。本当にありがとう。そして、」
「今日までありがとう。」
その言葉を聞いた時、上を向いて涙が流れるのを抑えた部員や膝に顔を埋めて隠す部員もいた。
「今日の相手はおそらく、今までで1番強かった。それなのに、心が折れずにずっと戦い続けてくれた。あと少し、と思い悔しがっているやつもいるかもしれない。それでも、この試合で得た経験をこれから先の人生でも大切にしてほしい。きっと、君たちを支えてくれるはず。なぜならこの経験は、君たちにしかできないのだから。」
女子マネージャーがハンカチで涙を拭う。
「今日まで一緒に、サッカーをさせてくれてありがとう。」
その言葉をもって、彼らの夏は終わった。
―――
そのあとはひとしきり泣いて、思い出話をした後は全員笑っていた。どうやらこの後みんなで夕食に行くらしい。
僕はその様子を見て羨ましいと感じる。だが、そこまで行くには度胸と時間が僕には足りなかった。
隣で千佳もその様子を見て微笑んでいた。彼女も引退をかけた試合が秋から始まる。わくわくと緊張とが隣り合わせになっているだろう。
だが、その集団の中に雅也はいなかった。最後のミーティングが解散した後、どうやら1人で帰ったようだ。
彼は一つのゴールを外したぐらいでは、落ち込むような男ではない。だが、今日はそっとしておいてあげよう。言葉にしなくとも、千佳とも同じ気持ちだった。
部員たちから、今日は応援に来てくれてほんとありがとうという言葉をもらい、打ち上げという名の晩御飯を食べに行く彼らと分かれる形で、千佳と僕は帰り道に進む。
燃えるような夕日が沈み、昼と夜の境目の赤紫色に染まる空。街灯がポツポツと点いて、試合会場の最寄駅へ歩き出した。
千佳はえらくサッカーの試合を気に入ったらしく、電車に乗ってもずっと、サッカーの話をしていた。
今度プロの試合も間近で見たいと言い出したかと思えば、今更「そういえば、オフサイドって何?」って聞いてきたのには流石に笑ってしまった。
夏休み真っ只中でも日曜日の夕方の車内は比較的空いていて、乗り換えの駅までは座ることができた。
午前中部活の練習をやってきたにも関わらず、午後は炎天下で試合を観戦していたハードスケジュールが流石の彼女もこたえたのか、まぶたを閉じてうとうととしていた。
時折、ブレーキで千佳の頭が僕の肩に寄りかかる。
なぜか高鳴る鼓動。
偶然、次が乗り換え駅だったためにすぐに起こした。
「あ、起こしてくれてありがとう。」
千佳は半分寝ているか寝ていないか際どい表情で、つぶやく。
もしそのまま寄りかかっていたのなら、僕は彼女に対してどんな感情を持っていたのだろうか。冷房で髪の毛が揺れていた。
あっという間に次の駅がいつもの最寄り駅だ。乗り換えてからずっとお互い話はせず、静まり返ったまま電車を降りて、夜道を歩いていく。
昔から夜道は暗いから、必ず千佳の家の前まで送ってから帰ることにしている。今日も「送ろうか?」とも聞かずに、勝手に足が進んでいる。
コツコツと互いの運動靴がコンクリートを踏み締め、横に並んで住宅街を進む。
「あのさ、来月バレーの試合なんだ。引退もかかってて、その、今年は強い代だから結構良いところまでいけると思うんだ。」
千佳がもじもじしながら話しかける。
「だからその、良かったら今日みたいに応援しにきてくれないかな。」
珍しく履いたスカートを指先で摘んで、いじりながら言う。
「ああ、いいよ。今日わかったけど、やっぱり友達が頑張ってるところを応援するってとってもいいよな。」
「……ともだち、ね。」
地面を見つめながら、気まずそうに笑って千佳はつぶやく。
そのあとはしばらく静かになった。相変わらず車通りのないこの道。当たり前のように道路の真ん中を歩いている。
千佳の家が見え始めた。そこから三つ手前の街灯で急に千佳は足を止めた。下唇を軽く噛み、何かを言いたそうにしている。なんだか険しい表情だ。
「どうした?体調でも悪い?」
心配して声をかけると、声を震わせながら、今度は今にも泣きそうな表情で言葉を紡ぎ始めた。
「あのね、よーすけ。その大切な友達で、昔からよーすけは私のそばにいて、それで、それが当たり前で。」
たどたどしく話している姿は、これから伝える台詞を出し惜しみしているようだった。僕は直感で、これはちゃんと聞かなくてはいけない。そう感じて、唾をのんだ。
「その当たり前が、この先も続けば良いなって思って。」
「うん、」
「昨日、また今度『みんなで』花火をしようって言ってくれたんだけど、その、」
「生まれて初めて、やっぱり私と二人きりが良い、って思っちゃって」
「うん。」
「だからねその、私、」
下を向いていた千佳が顔を上げた。
「よーすけが好き。」
まっすぐな眼差しで、できるだけ声を振り絞る。千佳の両手は腹部あたりの服を落ち着かない様子で握りしめ、気持ちを押し出した反動のように小刻みに肩で息をしていた。
人生で初めて告白された。僕はその言葉に触れ、初めて温かいような熱いような、不思議な感覚が体を波打たせる感覚に包まれる。
今まで千佳をそんな風に考えてはいなかった。かと言って、ないがしろにしていたわけでもなく、ただただ、驚きを覚えた。
もちろん、僕も好きだ。これまで誰よりも一番そばで、一番長く時間を共にした。嬉しさが込み上げたと同時に、雅也と浴衣を着て歩く姿を思い出す。果たしてこの好き、というのはそういう好きなのか。
僕は頭を巡らせ呼吸を整えると、なんとかして浮かんだ言葉を伝える。
「うん、その、」
僕が話終らないうちに、千佳は遮るように千佳が話し出す。
「あっ、今すぐに答えを出して欲しいわけじゃないから!……できればこの夏休みのうちに返事くれたら、嬉しい。」
「うん、わかった。ありがとうね。」
「こちらこそ聞いてくれてありがとう!また今度、会おうね!」
そう言って、そそくさと千佳は家の中に入って行った。
しばらくその場でぽかんと立ち尽くすと、我に返って自分の家へ進む。
ここから二つ隣の通り、すぐ近くに僕の家はある。でも今日は、そこまでがなんとなく、遠く感じる。
今までの距離を、僕らは越えようとしている。これまでの距離が心に体に染み付いて、恋人という距離が予想できない。そして、なぜかそれ以上にきっと、違う何かの理由で、僕は答えを出せずにいる。
千佳はそれを望んで、勇気を持って想いを伝えてくれた。その気持ちに応えられるだろうか。応えていいのだろうか。
ふと、ポケットの携帯に目をやった。画面が光り、通知が一つ来ていた。
「昨日はありがとうね。途中で帰っちゃってごめん。千佳から聞いたよ、雅也くん残念だったね。今日も誘ってくれたのにごめんね。」
美穂さんからだった。いつも彼女の文章には、「!」を使って元気な連絡をくれるはずなのに、今日は違った。
「明日は金曜日、またいつもの図書館で会おうね。おやすみ。」
彼女からの連絡はこれだけだった。
僕は立ち止まる。この感情はなんだろう。
そうか。僕は。
―――
「おかえりー、今日暑かったでしょ!雅也くんの試合、どうだった?」
母さんが台所からひょっこりと顔を出す。
にんじんを銀杏切りにしているところで、すでに切り終わったジャガイモや玉ねぎを見ると、シチューかカレーか、あるいは肉じゃがといったところだろうか。
「うん、延長まで行ったけどPKで負けちゃった。」
「そっかー、それは残念だったねー。でも、見に行けてよかったわね。お風呂が湧いているから先に入っちゃいなさいー。あとお風呂出たら洗濯物畳んでおいて!」
換気扇の音に負けじと声を張る母は、毎日仕事を終えてもこうして家事をやってくれている。いつか一人暮らしをして、仕事から帰ってきてからの家事なんて出来るはずはない。つくづく母の凄さに頭が上がらない。
少し肌寒くなった夜風の後の湯船は、末端から徐々に温めてくれる。そんな気がした。
浴槽から片腕をだらんと伸ばし、天井に三つ信号機の並び方でついた黒い斑点のシミをぼんやり眺めながら考える。
青春はもっと、爽やかで、どきどきして、甘酸っぱいものだと思っていた。色に例えると透き通った水色だ。清涼飲料水のCMでも屋上で寝そべるところに声をかける女子や、プールの掃除ではしゃいでいた。
でも、ウチの高校では屋上も使用禁止でプールも業者が掃除をしている。そして、今日の帰り道には戸惑いと迷いとが交差している。意外と青春の「青」はパステルカラーというよりかは原色の水色に近いようだ。
湯船は体を浮かせ、脱力感を与える。なんというか、この心地よさを美穂さんと話していると感じる。まるでどこかで会ったことがあるような。
―――
濡れ髪で洗濯物を畳み、バスタオルを肩にかけて頭を拭きながらリビングへ行くと、香辛料の香りがしてきた。先に食べ始めていた母さんは、缶ビールを片手に頬杖をつく。
目線の先にはクイズ番組がテレビに映っていた。
「アウトドアの豆知識」と題して、着火剤の代用となる日用品のクイズだった。リードをしている赤チームが正解したのに対し、青チームは連続不正解を叩き出し、大きく差が開いて負けている。
最後のコーナーとなっており、今までの数倍の点数が与えられるようになっていた。青チームにも逆転のチャンスがあるらしい。よくある展開だ。
緑と白のランチョンマットの中心に並べられた母の得意料理である、カレー。この中辛が美味しいのだ。
「母さんはなんで、父さんと一緒になったの?」
ふと聞いてみる。
「あら、父さんのこと聞いてくるなんて珍しいね?なんかあった?」
急にこちらに解答権が返ってきたが、「なんとなく」といってさらりと交わした。母さんはふーん、と言った顔をして答える。
「そうねぇ、あの人は日本中を救っている人なのよ。なのに、目の前の私もちゃんと愛してくれたことかな。」
いつもより落ち着いた声で言った。その言葉がなぜか、体にじんわりと染み込む。まだ恋とか愛とか僕はわからない。それでも思っていたよりも普通で、安心するものなのだと直感的にわかった。
「なんか、改めて言うと恥ずかしいわね。」
酔いが回っているのか、少し照れているのか、頬を珍しく赤らめて饒舌になって話し続ける。
「そんなもんなのかという顔をしてるけど、そんなもんなのよ。あんたがいつか、大切にしたいものがわかった時、ちゃんとそのタイミングで自分の心を大切にしてあげなさい。それが一番大事なの。」
どうやら顔に出ていたみたいだ。
いつの間にかクイズ番組は逆転優勝をしており、赤チームが悔しがっていた。
不動の優勝を確信していても、いつでも何事も、勝利はタイミング次第だ。
―――
