彼は「じゃ、俺は裏」と言って、目を合わせずに行く。

追いかけられないことが、こんなに呼吸を軽くする。

ノートの最後の欄に書く。

「今日:揺り返し/合図:丸→不要/見られた秒:影3.0・人1.0/きもち:揺→戻」

小さな星をひとつ。

スマホは、画面を下にしてベンチの上。

非常口の緑が、紙の端で細く揺れる。

トン、トン。

四つ吸って、四つ止めて、四つ吐く。

波は、また来るかもしれない。

けれど、待ってくれる約束がひとつある。

私が自分で止められる光の丸がある。

境界線を一本、また一本。

私は白いテープの上に足を置き、自分の歩幅で前へ出る。