目を合わせるまでの距離

午後、噂の波はやがて薄くなった。

流れてくるはずのスクリーンの文字は、通知オフの壁に当たって、こちら側に来ない。

私の仕事は、読む、渡す、整える。

態度で返す。

配布の列で、お年寄りの女性と一秒だけ目が合った。

驚くほど、怖くなかった。

むしろ、安心が一秒伸びたみたいだった。

「ありがとうねえ」と言われ、「はい」と返す。

天野さんは、相変わらず半歩斜めの位置で作業を回す。

「交代する?」とだけ聞く。

「いける」と私。