目を合わせるまでの距離

「いったん、裏の在庫、俺が見る。灯はここで、ラベル“だけ”でもいいし、休んでもいい。合図、丸で」


私はうなずく。

声を出さなくても合図は届く。

「丸」

「オーケー」

彼は半歩だけ下がり、視線の通り道に自分の肩をさりげなく入れる。

盾みたいにではなく、壁に寄りかかる人の自然さで。

私のスマホにはもう通知が出ない。

音は切った。

指先は、鉛筆に戻る。

トン、トン。

四つ吸って、四つ止めて、四つ吐く。

「ありがとう」やっと声が出た。

彼は「うん」とだけ答え、作業の列へ戻る。

距離ができる。

けれど、切れない距離だ。