目を合わせるまでの距離

「灯」

――名前は呼ばれなかった。

代わりに、床をとん、とんと二回叩く音。

彼の合図。

私が顔を上げないで済む距離で、「大丈夫?」

私はスマホを少しだけ傾け、画面を彼の視界に入れて、すぐ伏せた。

彼は内容を見ない。

ただ、私の呼吸の速さを聞いているみたいに、間を置く。

「無理しないで。約束、待つよ」

その言葉は、追いかけてこない。

近づきすぎない。

私の歩幅に合わせて速度を落とす。