目を合わせるまでの距離

見えるもの五つ――毛布の皺、ブルーテープ、非常口の緑、段ボールの角、ペットボトルのラベル。

触れているもの四つ――毛布、膝、懐中電灯の冷たさ、鉛筆の軸。

聞こえる音三つ――雨、靴のきしみ、名簿を読む声。

匂い二つ――海苔、おしぼり。

味一つ――口の中の水。

波紋の輪郭が、少しだけ丸くなる。

私はラベルを一枚読む。

「小麦・乳、含まず。表示あり」

声が自分に戻るまでに、もう一枚。

「含む。味、塩」

背中側で、スクリーンに流れているかもしれない言葉が、頭の横を通り過ぎる感じがする。

私はノートの端に「作業:継続/合図:まだ」と小さく書き足す。

書くと、境界線が一本できる。