目を合わせるまでの距離

配布の場所へ戻ると、噂は声にならないまま空気の端で擦れた。

視線の束が、どの方向にもありそうに感じる。

私は活字に目を縫いとめようとして、針目が粗くなる感覚に驚く。

りこからDM。

「見ないで消して 深呼吸 既読だけでいい」

スタンプの星が一つ。

私は“既読”だけにして、画面を伏せ、音を切る。

通知オフ。

彼――天野湊さんが、半歩斜めの位置に立っている。

声は落ち着いていて、届く距離を計っているみたいだ。

「補充、こっちに回すね。無理しないで」

「……うん」喉が先に固くなる。

私は5-4-3-2-1を思い出す。