でも、今度は自分で視線を下ろせた。

私は小さくうなずく。

「ナイス」

彼はそれだけ言い、箱の向きを私に合わせて回す。

私はノートに加える。

「3.0秒(影)/合図:なし/きもち:均→すこし、広」

スマホがポケットで軽く震えた。

りこから。

「無理しないで。進んだぶん、印つけよ」

私は“★”をひとつ描き足し、「進んだ」と返信する。

天井の雨音は、もう背景になっていた。

アナウンスが「午後にも状況をお知らせします」と告げる。

私は鉛筆をしまい、ダンボールのふたを畳む。

紙の角が、今日は手に優しい。

過去は、閉じて置いていくものではなく、置いたまま歩くものだと思う。

置いた証拠が、このノートの行と、三秒という小さな数字に残る。

私は小さくうなずき、次の箱へ向かった。

わたしは、わたしの練習を続ける。

それが、今の私が選んだ“続き”だ。