目を合わせるまでの距離

そう思っていたら、だんだん言葉の数まで減ってきた。

挨拶は短く、返事はうなずきで済ませる。

帰り道、りこが小声で言った。

「顔を上げなくても、灯は消えないよ」

私は笑って見せたつもりだったが、目はやはり横に逃げた。

その夜、国語の宿題の余白に、私は鉛筆で「嫌い」と書いてみた。

文字は自分の手の中にあるのに、胸の奥では他人の声が響く。

消しゴムで消すと、紙が白く傷ついた。

その跡をじっと見て、私はふうっと息を吐いた。

風の音が強くなる。

予報は雨だ。

スマホに注意報のマークが灯る。

カーテンを閉め、明日の準備をして、灯りを落とした。