目を合わせるまでの距離

配布が一段落したころ、天野さんが空のダンボールを抱えながら、私の真横ではなく半歩斜めの位置で立ち止まる。

「水、補充、いける?」

短い確認。

私はうなずく。

「さっきの、見てた。合図、いらなかったね」

「うん。ノートに、書いた」

私は胸ポケットを軽く叩く。

「よかったら、もう一回だけ。“名前で呼ぶ”の、影で三秒。だめなら、すぐ止める」

私は息を整える。

白いテープの継ぎ目――安全地帯。

そこから、視線をほんの少し上げる準備。

四つ吸って、四つ止めて、四つ吐く。

「……柚木さん」
いち、に、さん。

眉間の影。

電気みたいなぴりっとした気配は来た。