目を合わせるまでの距離

「今は、配ってるから」

私は付け足す。

「これをやる。わたしは、わたしの練習を続ける」

言葉は、自分に向けるために発音した。

宣言みたいに聞こえたなら、それでいい。

三上は息を引き取り、少し離れた。

視界の端で、私立のロゴが遠のく。

彼の靴底が濡れた床を踏む音が、ひとつ、ふたつ、列の中に混ざる。

天野さんが、箱の向きをそっと直してくれる。

言葉はない。

けれど、ラベルの角が私の目の高さにぴたっと合う。

私は読む。

「小麦・乳、含まず。アレルギー表示あり。味、野菜」

声は揺れない。

胸ポケットからノートを出す。

鉛筆の先で、小さく書く。