目を合わせるまでの距離

「……ごめん」

三上は、言葉の入口だけをやっと開けた。

「あのとき、悪口で笑い取ろうとして……ごめん。ノリっていうか、さ。誰かが言えって空気で、俺、その、調子に乗って。ほんとは、別に――」

“ほんとは”の続きが、空中で薄くなる。

私は活字を見たまま、その薄さを見ていた。

ほんとは、なんだったのか。

嫌いじゃなかった、のか。

怖かった、のか。

からかわれたくなかった、のか。

どれも、今の私を救う言葉ではないと分かる。

「言い訳、だよな。分かってる。マジで、ごめん」

彼は早口で重ねる。謝罪の形はある。