濡れた靴の集まる音、子どもの笑い声、配布の段取りを整える係の声。

私は立ち上がり、入口近くに新しく積まれたダンボールのラベルに視線を置く。

活字は相変わらず、私の目を受け止めてくれる。

そこで、名前が一つ、空気の中で引っかかった――三上。

昨日の背中が、今日は音になってこちらへ来る。

私は反射的に白いテープの継ぎ目に視線を落とした。

安全地帯。指先が冷たくなる前に、毛布の端をつまむ代わりに、鉛筆の軸をしっかり握る。

あの一言の輪郭が、喉の奥で薄い紙みたいに擦れる。

六年の春、廊下の陰で聞いた声。

「柚木、俺、あいつ嫌い」

私はその続きがあったのかどうか、いまだに知らない。

知らないままでも、生きてきた。

ノートの角を親指でなぞり、私は小さくうなずいた。

今日は、今日の練習をする。