目を合わせるまでの距離

喉の奥が少しだけ固くなる。

でも、ノートに欄を増やしたい気持ちが勝つ。

私はうなずく。

「……柚木さん」

いち、に、――言葉の響きが胸の中で音符みたいに跳ね、私はさんの直前で視線を落とした。

「丸」

「オーケー」

彼は即座に床の一点を見る。

追いかけてこないことが、追いかけられるよりずっと心強い。

私はノートに書く。

「1.8秒/合図:丸/気持ち:喉きゅ→解」

その横に小さく、**“次は2秒”**と目標。

ペン先が紙を擦る音が、背中のほうまで届く。

りこから「★よし」のスタンプが届いた。

私は親指で“既読”の明かりを消し、深呼吸を一度。

海苔の匂いが、さっきより近い。