目を合わせるまでの距離

でも、夜の停電みたいな真っ暗は来ない。

来ないうちに、私は自分で視線を下ろす。

「ナイス」

天野さんは短く言って、私の歩幅にゆっくりブレーキをかける。

「今のは“正面”扱いでいいと思う」

私は胸ポケットからノートを出す。

震えない字で書けた。

「3.0秒/合図:なし/気持ち:びり→平」

小さな星をひとつ付けた。

へんな達成感に笑いそうになるのを、喉の奥で止める。

笑ってもいいのに、止めるクセが残っている。

彼は何も言わず、ただ足もとを指でとん、と二回叩いた。

合図の音。

私はうなずき、次の箱へ戻る道で、もう一度だけいち・に・さんと心の中で唱える。