目を合わせるまでの距離

準備をするみたいに、私は呼吸を整える。

四つ吸う。四つ止める。四つ吐く。

ラベルを一枚読み上げて、次の箱に手をかけるタイミングで――いち、に、さん。

眉間の影の手前で視線が跳ね、二秒と少しで、勝手に下がった。

喉の奥にちいさな熱。

「丸」

「オーケー」

天野さんはすぐに視線を外し、箱の向きを変える。

「今の、二秒ちょい。十分前進」


私は胸ポケットからノートを出し、端に小さく書く。

「2.3秒/合図:丸/気持ち:熱→少し軽い」

できた回だけ、印。

鉛筆の芯が紙に沈む音が、耳に優しい。

次の列が近づく。

私は活字に戻り、もう一度深く息を吸った。