目を合わせるまでの距離

「おはよう。今日も、ラベルお願いしていい?」

落ち着いた声。

天野さんが、濡れていない新しいジャージに替わっていた。

腕章の位置は同じで、名札の「湊」の文字も変わらずそこにある。

私は顔を上げない。

上げないけれど、声の高さと間で少しだけ安心する。

「できるやつだけでいいから」と彼は続ける。

「もし試せそうなら、“三秒だけ”やってみる? 目じゃなくて、眉間のあたりの影を見る感じで。ムリなら、すぐ“丸”って言って」


“丸”。

昨夜、光の丸を重ねた合図の言葉。

言えば止まってくれる約束の音。

私はうなずく。

「三秒、だけ」