見えるもの
――毛布の皺、ブルーテープ、非常口の緑、ペットボトルのラベル、天井の鉄骨。
触れているもの――毛布、膝、鉛筆、懐中電灯。聞こえる音――雨、名前を呼ぶ声、ビニールの擦れる音。
そこまで書いて、私は鉛筆を止めた。
入口の方で、朝の連絡が始まる。
「現在、雨はやや弱まりつつあります。通行できない道路があり、引き続きここでの待機をお願いします」
天井の雨音が、たしかに少し軽くなった気がする。
夜は終わっていないけれど、終わりに向かっている。
私はメモを折りたたみ、パーカーの内ポケットにしまう。
膝の上の光の丸は、相変わらず小さい。
でも、そこに自分を置いておけば、広い体育館の中でも、私は迷わない。
遠くで誰かが「ありがとう」と言い、別の誰かが「どういたしまして」と返した。
そのやり取りが、ゆっくりと私の胸の水位を落ち着ける。
三上、という音はまだ胸のどこかに残っている。
けれど、今の私は、その音よりも、ここで数えた四つや、丸い光の輪郭の方を、確かに選べる。
四つ吸って、四つ止めて、四つ吐く。私は小さく、うなずいた。
――毛布の皺、ブルーテープ、非常口の緑、ペットボトルのラベル、天井の鉄骨。
触れているもの――毛布、膝、鉛筆、懐中電灯。聞こえる音――雨、名前を呼ぶ声、ビニールの擦れる音。
そこまで書いて、私は鉛筆を止めた。
入口の方で、朝の連絡が始まる。
「現在、雨はやや弱まりつつあります。通行できない道路があり、引き続きここでの待機をお願いします」
天井の雨音が、たしかに少し軽くなった気がする。
夜は終わっていないけれど、終わりに向かっている。
私はメモを折りたたみ、パーカーの内ポケットにしまう。
膝の上の光の丸は、相変わらず小さい。
でも、そこに自分を置いておけば、広い体育館の中でも、私は迷わない。
遠くで誰かが「ありがとう」と言い、別の誰かが「どういたしまして」と返した。
そのやり取りが、ゆっくりと私の胸の水位を落ち着ける。
三上、という音はまだ胸のどこかに残っている。
けれど、今の私は、その音よりも、ここで数えた四つや、丸い光の輪郭の方を、確かに選べる。
四つ吸って、四つ止めて、四つ吐く。私は小さく、うなずいた。

