目を合わせるまでの距離

校門の前では、生活委員の先輩が立っていた。

会釈はできる。

けれど、視線が触れる手前で、心臓が二度、強く鳴る。

点呼で名前を呼ばれると、私は黒板の端を見て「はい」と答えた。

手は机の縁まで。

声は届くが、目は届かない。

放課後、掲示板の前で立ち止まる。

図書委員の募集案内を眺めていると、上級生の女子が「興味ある?」と声をかけてくれた。

顔を上げられず、「ちょっと」と小さく言う。

彼女の優しい気配はわかったのに、帰るころ、空に雲がひろがっていた。

風は湿っていた。

今日も私は、誰の瞳もちゃんと見られなかった。

明日は、少しだけでも。

目を上げたいかも。