目を合わせるまでの距離

天野さんが、床のテープを指でとん、と叩いて、列の人に「こちら並んでください」とだけ告げる。

私に向けた言葉はない。

けれど、紙皿の束を私の手に渡すとき、指が一瞬だけ長く触れた。

合図のように、でも合図だと誰にも分からない長さで。

私は四つ吸って、四つ止めて、四つ吐いた。

できた。

「これ、数お願い」

天野さんの声。

私は十ずつ束ねて、「五十」と渡す。

声が、いつもの自分に戻る場所を見つけてくれる。

彼は小さく「ナイス」と言い、箱の向きをまた私から読みやすい角度に直してくれた。

言葉をたくさん交わさなくても、作業のリズムは続く。

続けば、波紋は静かになる。