目を合わせるまでの距離

名前が、目の高さより低い位置から投げられた。

膝が、内側からふわっと緩む。

脈のリズムがほどけそうになる。

私は数字を掴もうとする。

トン、トン――四つで吐く、次の四つ。

うまくいかない。

天野さんが、並びの人に向けて、いつもの調子で言う。

「水は一本ずつです。後ろにお渡しください」

列は前へ進み、私の前の空気にも、少しだけ流れが戻る。

「……久しぶり」

彼が言い足す。

私は「はい」とだけ返す。

自分の声の高さが、少しだけ上ずっている。

目はまだラベルの角。

そこだけが、今の私の場所だ。