目を合わせるまでの距離

列が進み、彼がこちらの机の前に来た。

濡れた前髪、私立のロゴの入ったジャージ。

覗き込むような癖は昔のまま、おそるおそる、でも近い。

私は目を上げない。

ラベルの角を見て、「水、一本どうぞ」と言う。

声が自分のものに聞こえない。

「……ありがと」

彼が答える。

ずっと背中でしか聞いてこなかった声が、真正面から空気を震わせる。

高校の制服の布の擦れる音が一瞬遅れて届く。

彼がペットボトルを取る指先が、視界の端を横切った。

「柚木、だよな?」